31日目 ページ31
『ねぇ、シイナ』
「はい？」
『シイナさえ良ければ、ここで、3人で過ごせないかなって思ってるんだけど』
「…どうして、そんな、急に」
借りた風呂場で服を脱いでいる途中、Aさんは私にそう言った。
彼女だってわかっているはずだ。
いつまでもここにいられないことくらい。
数日お世話になったとしても、キャネルとかいうあの男が信用なるかどうかなんて分からないし、いつ足がつくかわからない。
そんな危険な状況で、彼女がこんなことを言い出すなんて。
あの男に何か吹き込まれたのだろうか。
『…詳しくは言えない、けど、行き当たりばったりで逃げるのも、この先良くないんじゃないかと思って…』
「だから、見つかるのも覚悟の上で、ここに留まるって言いたいんですか」
『…シイナがあの人を警戒するのもわかるよ、私だって信用しきったわけじゃない、けど、いずれ、二人に限界が来るんだよ』
「っ、そんなの、わかんないじゃないですか！」
『…！』
Aさんは、私に背を向けて脱いでいたが、その手を止めて、驚いたような顔で私を見た。
彼女に、こんな感情を抱いたのは初めてだ。
限界だなんて。
そりゃ、私は彼女の足元にも及ばない。
けれど、彼女に、いつかは私が彼女と別の道を歩むことを選んでしまう日が必ず来ると言われて。
まるで、最初から私のことを諦められているみたいで。
それがとてつもなく辛かった。
でも、彼女の方が、もっと苦しくて辛そうな顔をしていた。
はっとして、直ぐに顔を上げた。
「ご、ごめんなさいっ…私…そんな、怒鳴ったりしたかったわけじゃ…」
『…わかってるよ、私こそ、ごめんね』
「……Aさんは、私じゃ頼りないですか」
『そんなことないよっ…そうじゃ、ない』
「…Aさん、私、Aさんには、幸せになって欲しいんです、その為だったら、何だってします…この命を捨ててでも」
彼女の手を取って、それは自然に笑ってみせた。
だけど、彼女は、酷く恐ろしいものを見るかのように顔を歪め、私の手を払った。
私は驚いて、手を見た後に、彼女を見た。
初めて見た、彼女の顔。
絶望にも似た、失望にも似た、何か、憎悪を感じさせるような、そんな顔。
『…ねぇ、シイナ』
「…はい」
『私のこと、好き…？』
何かが可笑しい。
胸が張り裂けそうなほどに、反吐が出そうだ。
彼女は、私と誰かを、重ねている。
だから、その誰かに負けないように、笑顔で言うのだ。
「愛してますよ」
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ぱずる(プロフ) - 感動してボロボロ泣きましたwなんと言えばいいのか分かりませんが、とても素敵なお話でした。面白かったです!! (2021年4月30日 1時) (
レス) id: 6fda5d1ca9 (このIDを非表示/違反報告)
そういろね(プロフ) - みみみさん» コメントありがとうございます。返信が遅くなってしまい申し訳ありません！書き終えてから少し走り気味だったかもと反省していた部分があったので、好きという言葉をいただけて本当に嬉しいです！他の作品もよろしければ見てやってください。 (2020年3月6日 0時) (レス) id: 3979da825c (このIDを非表示/違反報告)
そういろね(プロフ) - わたあめさん» コメントありがとうございます。返事が遅くなってしまい申し訳ありません！走りが気になってしまった部分もあり少し心残りのある作品だったので、そう言っていただけると嬉しいです！他の作品もよろしければ見てやってください。 (2020年3月6日 0時) (レス) id: 3979da825c (このIDを非表示/違反報告)
みみみ - やっと見つけました！ 本当に好きです！ (2020年2月16日 17時) (レス) id: a3e96579f7 (このIDを非表示/違反報告)
わたあめ - 初コメ失礼します…？感想っていうか…この話本当に好きです。他のどんな話よりも。本当に。作者さんに尊敬の花束を。 わたあめ(語彙力溶けた) (2019年7月31日 11時) (レス) id: 058dc021e0 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：そういろね | 作成日時：2019年4月9日 19時
