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「…」
『…そんな見つめんとってよ』
「やって…綺麗やねんもん…」
『変なこと言わんとって、早よ行こや』
「…」
『鬱、お願いやから前向いて、電柱さんとキスしてまうで』
「…」
『鬱器用な歩き方するんやな、肩に目でもついとるん?』
一向にこちらから目を離さない鬱の目の前に迫った電柱さんだが、まさか電柱が避けたのかと思うほど自然に鬱は電柱を避けた。
前向いてないのに。
頰を軽く叩けば、ハッとしたような顔をして隣を歩き始めた。
『何気にお祭り毎年来てもうてるやん』
「せやなぁ、夏休みはまだあるけど、もう8月終わってまうしな」
『夏祭り来ると、夏休みの終わり感じて、いつも微妙な気持ちやったんよな』
小学生の頃は、神社の大きな木に蜜を塗って、よくカブトムシやらクワガタやらを捕まえては飼っていた。
私じゃなくて、皆が。
鬱も案外その1人で、あの時は1番活発な子だったんじゃないかと思う。
シッマよりも煩かったかな。
『あ、りんご飴』
「好きやなぁ、毎回買ってるやんな」
『ん、甘くて美味しいねん、買って来てええ?』
「買ったるよ、どっちがええの?」
『大きい方』
「遠慮ないねんな」
と言いつつも、全く嫌な顔をしないのだから困ってしまう。
そうだ、昔から、鬱の嫌そうにしている時の顔なんて、顔に毒草近づけられたりした時くらいだった。
あとは、トントンに宿題を写させて貰えなかった時。
保健室のしんぺい神先生に会うのも嫌がってたっけ。
イケメンだからと、女の子からは人気があったが、男の子からしたら何か対抗心みたいなものでも湧くからなのだろうか。
『…この木、昔少し怖かってんな』
「ああ…あんまり近づきたがらなかったな、暗いって言うて」
『吸い込まれると思っとったんやもん、ほら、大きな穴あるやろ』
「あん中に、宝物入れてへんかったっけ」
『え、そうやっけ』
「見てみる?」
『…んー、鬱が見てや』
鬱は腕をまくり、木の穴の中を携帯で照らしながら慎重に取り出した。
ごちゃごちゃと出て来たが、自分のものがどれかは、すぐにわかった。
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作者名:そういろね | 作成日時:2019年4月4日 4時