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「Aちゃん」
『なに？』
「おいで、浴衣着付けたるよ」
『ほんま？』
これでも女の子だ。
浴衣が着れるなんて嬉しいに決まっている。
地元の少し大きめのお祭り。
神社に人が集まって、模擬店の灯りで照らされる、あの光景はいくつになっても好きだ。
「実はな、Aちゃんのお母さんから、遺品預かっとったんよ」
『え…』
「ごめんな、でも、ちゃんと話したらあかんと思って、少しだけやから、聞いてくれる？」
『…うん』
おばさんとおじさんの寝室につけば、綺麗に整理された部屋の隅に大きなタンスが置いてあった。
おばさんは、そのタンスの前に座り、1番下の棚をゆっくりと開けた。
見えたのは、見覚えのある和服だった。
「Aちゃん、ショックでお母さんの写真も見れんかったやろ、やから、親戚の人が落ち着くまでは思い出さへんようにって」
『…そうやったん』
「お母さんの病気は、仕方ないなんて簡単には言えへんけど、幸せにならな、お母さん悲しんでまうで」
『…っ、うん』
「きっと、笑顔で来て欲しいって思っとるよ」
父は病気でも怪我でもないが、若くして寿命で亡くなった。
私が中学校に上がる頃には、完全に母と二人暮らしだった。
母は看護師で、その上師長になったので、二人暮らしには充分のお給料だった。
しかし、母が働けなくなった。
病気になってしまったのだ。
気づくのが遅くなり、手術さえも出来ないとさえ言われてしまった。
出来る限り長く、母と暮らす為に、高校に行きながら働いた。
アルバイトは禁止だったが、家の事情を説明すれば特別許可を得ることができた。
しかし、アルバイトで手に入るお金なんてたかが知れているので、それは全て私の生活費に充てた。
母の貯金は、全て治療費に充てた。
そんな私の苦労なんて知らず、点滴に異物が混入しており、母は血管がつまり亡くなった。
『…お母さん、綺麗やったんやろなぁ…』
「そりゃな、Aちゃんと同じ美人さんやったからなぁ、結婚式も和服着とったんやで、綺麗で綺麗で…皆が見惚れとったわ」
『…うちも、お母さんみたいに着こなせるやろか』
「きっととびっきり綺麗やで、お母さんも驚いてまうくらいに」
『そっか…そっかぁ…』
止まらぬ涙の中、母の晴れ舞台を想像した。
その姿が何故かとても鮮明に想像できてしまって、そのあまりの綺麗さに、笑みが溢れた。
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やばぁい。
もうちょっとで終わっちゃうよぉ…。
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作者名：そういろね | 作成日時：2019年4月4日 4時
