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『サメおるで、大きいなぁ…』
「近くで見ると結構迫力あんねんな」
『ぬいぐるみやとかわええのに…リアルはちょっとグロテスクやな…』
Aは気難しい顔をしてガラスに張り付いて、近くを泳ぐサメを見て呟いていた。
周りは暗く、青色の光だけが足元を照らしていた。
Aは、ガラスに指を這わせ、指に反応するようにガラスをつつく魚を一枚越しにつついて、驚いて高速で泳ぎ逃げる魚を見てクスクスと笑っていた。
『次は海行きたいな、潜りたい』
「サメに食われてまうで」
『…うち美味しくないで』
「人肉なんて大差ないと思うけどな、一口でバクリいかれてまうやろな」
『ぅ…怖…』
「サメいない海水浴場行こな」
『そうして』
手を繋ぐのには慣れてしまったようだ。
どちらとでもなく、当たり前のように繋ぐのが、嬉しいような、照れた顔が見えないのが少し残念なような。
彼女は周りの水槽に興味津々なようで、情けないが、Aに腕を引かれて、それに着いていくような形になってしまっている。
『…あ、ニモや』
「クマノミやんな、案外小さいな」
『かわええなぁ…』
「飼いたい?」
『…死ぬところは、見たないな』
「…せやな」
Aの手が微かに震えていた。
安心させるようにぎゅっと握れば、驚いたかのように顔を上げた。
それを利用して、軽く、触れるだけのキスをした。
戸惑ったように口をはくはくと魚のように開閉を繰り返すので、今度は額に唇を落とした。
『なに、しとんの…』
「大学でキスしたんに、ここでは恥ずかしいん?」
『…人目があるやろ、大学よりも』
「んふ、かわええなぁ、顔赤いで」
『赤ないわ、青色や』
「負けじと赤いねん、顔熱いで?」
Aは不服そうに唇を尖らせた。
確かに、周りの暗さと青い光で顔の色なんてほぼ真っ青だけれど、微かに光る、せめてもの照明が、彼女の熱く火照った頰をほんのりとうつしていた。
実際に頰に触れれば、熱が出たかのように熱かった。
『…ありがと』
「何が?」
『…別に、何でもない』
「あっちにチンアナゴおるで」
『にゅるにゅるしとるやん…』
「ワカメだってにゅるにゅるしとるで?」
『何その暴論』
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作者名:そういろね | 作成日時:2019年4月4日 4時