Off The Record (ページ9)

今日:8 hit、昨日:0 hit、合計:1,732 hit

06 これは僕の話ページ9

─

どうしよう、という不安な気持ちはあった。かと言って、自分の好きなことを見てもらう、パフォーマンスするというところにおいて自信がないわけではなかった。

審査としてグループを組み、出された課題曲をやるうえで自分が一番懸念していたのは、グループの人たちとうまくやっていけるかというところだった。
竜平にとって歌やダンスはこれまで誰かと協働して創るより自分で創り上げることのほうが多かった。また人見知りもあって、オーディションが始まってからというものの、あまりに周りの人たちと喋っていない。そんな中でリーダーを指名される、まさかだと思った。
ほぼ同い年の人を除けば、あとはみんな年上のメンバー。ダンスだったり歌だったりとそれぞれの得意なものがあるなか、バラバラにならずに果たして二日間の練習だけでパフォーマンスできるのか。竜平は緊張感がありつつも、少しざわつく会場のなかでそんなことを思っていた。そして移動の時間になって自分の荷物をまとめていると、とんとん、と不意に肩を叩かれて思わず肩が飛び跳ねる。

「一緒のチームよろしく」

振り返った先には同じAチームで呼ばれた…花岡、A…くん。顔は覚えてたけど、名前には確信が持てなくて、顔とゼッケンを視線が行き来する。竜平自身も身長が高いと言われるほうであるが、Aのほうがなんだか高く見えた。マスクで顔自体は半分ほどしか見えていないものの、A自身から出る雰囲気はなぜだか圧倒されるような気持ちだった。
そして、そんな人にまさか話しかけられると思っていなくて、言葉が詰まる。少々ぎこちなく返事をすれば目の前の彼は少し驚いたような、キョトンとした表情を一瞬見せた後、すぐに目元を緩めて「おー」と返事をしてくれた。その笑顔になんだかホッとしたような気持ちになる、が。ここからが人見知りの悩ましいところであった。せっかく話しかけてもらったのに、そこから会話をしようにも話題が何も思いつかなくて気まずい。どうすればいいか分からず、足早にスタジオへ行こうとすると後ろからグッと故意に押された感覚で足が反射的に前に進んだ。
驚いて声を上げると後ろのAくんから楽しそうな笑い声がする。驚きと気恥ずかしさと、まだ序盤なのにも関わらず、背中を押してくる彼のその緊張感のなさにつられて、今から始まる審査への不安や心配が少し杞憂だったように思えた。マスクの下でふ、と口元が緩んだ。

─