Off The Record (ページ2)

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01 ベロニカの心臓ページ2

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椅子があった位置よりも照らされたステージ。眩しいほどに明るいライトが自分に向けられて、反射的につい目を細めてしまった。
数十人もの視線がオレに突き刺さる。オーディションなどという緊張感があるこの場で久々に感じるそれは痛いようで、なんだかくすぐったくって自分の心臓がより早く拍動するのが何となく分かった。
身体は思ったより興奮しているらしい。その動悸につい口角が上がってしまう。は、と口から息が漏れる。ひとまず乾いた下唇を舐めて、大きく息を吸った。なんだっけ、ひとまず自己紹介をして、それから。

「福岡県から来ました、花岡A。21歳です。」

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主催者である日高さんの声で、順番に一人ずつ名前が呼ばれていく。
呼ばれたその人は幾分変わったことをするでもなく、返事をしてその場に立ち上がった。酷く通る声だなと思った。そうして流れるように椅子があった場所からステージ上へとゆったりとした動作で歩き出していく。
とりわけ背が高い訳でもなかったが、形の良い小さな頭と後ろから見たそのまっすぐな背中がなんだか美しくてやけに目を惹いた。

日高さんがステージ横でこれまでの人たちと同じように自己紹介を促す。それに応じるように、ステージに立った彼はマイクを口元へと持っていった。形のいい唇がきゅっと弧を描き、小さく息を吐いた音をマイクが拾った。少し目にかかった前髪を邪魔そうに首を振って払う。
そのたった数秒の間、全てがスローモーションに見えた。

「えー、と。両親からよく言われた言葉は、〝夢こそ口に出していけ〟でした。
今日は、こんなに素晴らしい場に立てたので、どうせならデカい口叩こうと思います。
僕の夢は、日本はもちろん世界に僕自身と僕の大好きな音楽を認めさせたい、そしてその幅をもっと広げたいです。よろしくお願いします」

名前を呼ばれて返事をしたときよりも、張ったような声が殊更よく通った。緩んだ口元は人懐こくも見えるが、それに反して闘争心が垣間見える自信のある目つき。その目に反射的に椅子にもたれていた姿勢を正す。

審査曲の中でも、これまでの人たちが歌っていなかったイントロが流れ出して、軽やかなリズムに無意識に体が揺れた。先程までよく通ると感じた声が一変して、柔らかな響きに変わる。曲に合わせてころころと変わる表情。会場の一部の人がつられて彼の奏でる音に軽く身を任せだす。

同じ立場なのに、彼には次の審査へ行ってほしいと思ってしまった。

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