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「まあでも俺は好きだよ」
「ん？」
そう言ってグラスを傾ける京本くんに何が？と問いかけようとするも口に頬張っているのでなかなか話し出せない。急にどうした？今の流れで何が好きなの？と思っていれば何かに気がついたように話し出したのは京本君が先だった。
「あ、別にAさんのことそういう意味では好きなわけじゃなくて」
「そういうわけじゃないに決まってるけど…いきなり何？」
「いやわからないかと思って」
「わかるよ！」
何が？って聞こうとしたの！と目の前の京本くんに言えば「あ、そう？」とけろりとされて終わり。京本くんの言っている意味が分からなさすぎる。
「別にそんなキャラ作んなくてもって、いつもの演技くさい方よりこっちが好きだよってね」
「演技くさいかな…でもまあそれができたらいいんだけどね」
「ふーん」
「興味ないじゃん」
「いやあるよ」
ま、いいや、と何がいいのかわからないが2人でまた食べるのを再開したがさっきの京本くんの言動になんだか時間差で照れてきた。…いや、そういう意味ではないことは重々承知だがそのままでいられたというか結構気を張らずにいられたのは久しぶりすぎてなんだか照れと共に嬉しさが襲ってきて何も食べられなくなる。まずい、なんだか急に箸が動かない。お腹は空いてるのに。
そう思わずぼんやりしていれば目の前の京本くんも何かに気がついたように私の顔を見て不思議そうに眉を顰めてねえ、と顔を覗き込んでくる。
「箸止まってるけど」
「いや…」
「え？なんか顔赤いよ、照れてんの？」
「何に？そんなわけないじゃん」
「さっきのやっぱり告白だと思った？」
「思わないって！」
全く照れなくなった。すっと熱が引いてさっきのは何かの間違いだとこの瞬間実感した。目が合った先の京本くんは面白そうにニヤニヤニコニコしてるし私がじろりと睨むのにも「Aさんってさあ、睨むの上手いよね」とよくわからない褒め言葉を返してくるのに眉まで寄ったのだから多分照れたのではない、弱みに優しくされてちょっとおかしくなっただけだ、呪いみたいなもんでしょ。
「今失礼なこと思ってない？」
「お、思ってないけど」
「ならいいか」
そう言って特に気にする様子もない京本くんに「掴めなさすぎ、なんで焼肉まで誘ってくれた挙句に奢ってくれたのかの理由もよくわからないし…」と最後まで不思議な気持ちになる食事は初めてだ。まあ焼肉は美味しいししゃべるのも楽しかった、けどさ。
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作者名：七瀬
| 作成日時：2023年3月17日 22時
