・ ページ40
.
そのあとAさんの家の玄関で「Aさんといたほうが飲み会なんかよりも楽しかった」みたいなことを言った気がする。なんで自分の言ったことをこんなに覚えていないかというとその言葉の後にびっくりしたように目を見開いてうろうろ視線を落ち着かなくさせるAさんのことばかり覚えているから。
そして次の日、なんか樹がこそこそしてるしAさんと樹が話しているところを眺めて少しモヤモヤした。なんだ？と思いながらも窓の外を眺めていれば「きょも」と俺の名前を呼んだ樹に振り返ればこの前断った飲み会、何したら来てくれる？」と言われたのにうーんと頭を悩ませる。
「何しても行く気ないけどね、別に」
「ほんとに？誰か呼んだら来るとかないの？」
「まあAさんいたら行くかもね」
「ふーん」
言うと思ったけど、と笑った樹になんだかむかついた。また視線を窓の外に移せば偶然Aさんが友達と話しながら横切るのが見えて思わず口元が緩む。「えーなんか笑ってんだけど」と偶然横にいた慎太郎がうるさかった。別にいいでしょ。
…と思っていたのも記憶に新しい頃、「ねーきょもこんどの飲みくるでしょ？Aちゃんもいるし〜」というヘラついた樹の言葉に思わず「は？」と目を見開いてしまったのも無理がないと思う。なんでAさんが来るの？と思ったところでこの前の酔っ払ったAさんの顔を思い出して、気づいたら席を立っていたし、この前の探りみたいなやつはこれかよ、と思いながらAさんを問い詰めればうろうろ視線は落ち着かないしその後ニヤニヤしながら後ろから来た樹とはずっと何かをコソコソ話していて本格的にイラついた。なに？本当に、と思いAさんのトートバッグを引っ張れば「痛え！」と声をあげてしまったのに慌てて手を離す。ごめん。
素直に謝れば「ま、まあいいけど…」となぜかAさんが落ち着かないようにドアノブに手をかけるのを制す。少し下にある丸っこい後頭部をみつめて、少し赤くなった耳が可愛かった。振り返ったAさんと目が合って少しずつ震えるくちびるにどうしようか。どん！と俺の肩を押して部屋の外に駆け出していく姿を、後ろ姿が消えるまで見送った。
そんなことがあってしばらくして結局飲み会には俺もAさんも参加していたし、俺は遅刻しかけたせいでAさんとは違う卓でため息しか出ない。はあ、と一息ついてグラスを煽れば「京本くん」と目の前から聞こえた声に顔をあげれば「いろいろよろしくね」マジでいい子だから泣かせないでね、とAさんの友達が笑っていた。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 1268人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：七瀬
| 作成日時：2023年3月17日 22時
