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「Aさんのこと、心配だよ」
「な、何が…？私別にそんなに追い詰められてもないし元気なんだけど…」
急に真面目になった京本くんがそんなことを呟いて私の顔を見つめるのにまた間抜けな顔になる。京本くんマジで酔ってない？と思いながら思わず怪訝な顔になってしまい「京本くん、ゆっくり寝てね」と頷きながら顔を見れば「Aさんこそゆっくりね」と笑われた。なんか逆に優しくされてしまった。
「じゃあここで、京本くん向こうだよね」
「送るよ」
「え？いいよ、すぐそこだよ」
「送るってば」
そういうとこだよ、と持っていた今となってはゴミばかりが目立つビニール袋を引いて私の帰るマンションへと京本くんがつま先を向ける。
はっきりとした足取りに「変なこと言ってるけどもう酔ってはいないんだな」とぼんやり思いながらずるずると引きずられながら京本くんの後頭部ばかりを見つめる。
今気づいたが意外と背が高い。いや、なんとなく背が高いんだなとは思っていたが顔立ちと周りの人たちと無意識下に比べてしまっていたのか自分よりもちょっと背が高いぐらいに思っていたが改めて見ると目線は結構上だし…まあ顔の大きさは多分私の方が大きいのでなんだか悲しくなるけど。
「Aさん」
「え？」
「いい加減自分で歩いてよ」
「あ、ごめん」
こんな夜中に俺が引きずってたら変じゃん、と京本くんが笑って私の持っていたビニール袋から手を離す。
確かに散歩じみてるよな…引きずってたら…と思い京本くんの横に並べば「こっちのほうがいいね」と満足気に笑っていた。
「じゃあ本当に着いたから、ありがとね」
わざわざ本当に家の前まで、と歩いて私の家のエントランスまで本当に送ってくれた京本くんに手を振れば「うん」と眉を下げてまたね、と笑うのになんだかちょっと恥ずかしくなる。今日の京本くんはなんかいつもより優しく見える、夜中だからかな。
じゃあね、と京本くんに感謝しながら背中を向けようとすれば「Aさん」と呼び止められて振り向く。
「京本くん？」
「飲み会より楽しかったよ」
「え？」
「Aさんといた方が、楽しかった」
心配なのは夜遅くにふらふらしてるから、そう言って笑う京本くんをなんだか直視できない。な、なんだ？京本くんってこんな人だっけ？なんかもっと、違う感じの、それじゃなかった？
「き、気をつける、ね」
「そうして」
またね、そう言って背中を向けた京本くんを今度は私が見送る番だった。京本くん、そういうの、あんまりなんとも思ってない人に言うの、やめた方がいいよ。
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作者名：七瀬
| 作成日時：2023年3月17日 22時
