こじつけプロローグ

・ ページ48

.




「…なにあれ」
「えっ？」
「俺には好きって一回しか言わないのに樹にはあんな簡単に言うんだ」
「…え？」



　不服です、と言わんばかりに拗ねた声色と不機嫌そうにさっきよりも濃く刻まれた眉間の皺に「樹が好き…私が？」と全く見に覚えのないことを思い出していれば先ほど教室でつぶやいたあまりにも棒読みの言葉に気づく。



「あ、あれか…あんなの何の意味もないよ、気にしないで」
「…気にするでしょ、俺には全然言わないじゃん」
「あ、あんな棒読みでも気にするの？」
「…ばかにしてんの、するよ」



　だって俺には言わないじゃん、と完全に機嫌を損ねてしまった北斗くんに「ご、ごめん！いやほんと何も思ってなかった！まじで！」好きなのは北斗くんだけだから！とクズ男の常套句みたいな言葉が口からこぼれ落ちた。どっちが彼氏で彼女かわからなくなってきたな。



「…なにそれ、全然気持ちこもってないじゃん」



　そう不機嫌そうにつぶやいた北斗くんがぎゅうと私を引き寄せてがちりと腰を抱き締めて「ね、A」と耳元で呟くのにぴくりと肩が跳ねる。



「な、なに」
「好きってもう一回言って」
「あ、え、あ…す、すき、です」
「名前から」
「え？あ、ほくとく、」
「北斗」
「え？」



　北斗って、よんで、と耳元で囁かれた低くて甘い声にもうどうすればいいかわからない。顔ばかりが暑くてうまく言葉が出てこない、どうしよう、じわじわと熱くなる頬をそのままに「北斗、す、すき、だよ、」とおずおず呟けば満足したように一度抱きしめる力を強くされて顔を覗きがれた。あまって、みないでよ。



「…顔あっか、のぼせた？」
「べつに、赤くない」
「赤いよ」



　…さいあくだ、なんでこんな恥ずかしい顔北斗くんの前でしなきゃならないのさ。本当に嫌だな、と思いながらもさっきよりもごきげんそうに繋がれた手と嬉しそうな横顔になんだか悔しくなって頬を摘めば「いたいよ」とまた北斗くんは楽しそうだった、くそ、ばかにして。



「北斗くんきらいだよ」
「ええ、嘘じゃん」
「うそじゃないよ」
「嘘じゃないならそんな顔しないよ」



　ね？と優しく目が細められて笑われるのにもう限界で俯けばまた頭の上から楽しそうな笑い声が降ってきた。



「…すきなの、俺だけじゃないね」
「なに、何言ったの」
「なにも」



　なんて最後の言葉は聞こえなかったけど、すごい優しい顔して手握ってくるから何も聞かないことにする。北斗くんのこと、好きじゃないわけ、ないじゃんね。




.

終わり ログインすれば
この作者の新作が読める(完全無料)

←全力アイラブユー

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す