消えた。:クレフ博士、ジェラルド博士、ブライト博士 ページ3
「無い…」
絶望に掠れた声が、休憩室に虚しく響いた。
「ど…どうして…?嘘でしょう、アンタ達…そんな…いい歳した大人じゃないですか…」
数人が目を逸らす。いい歳した大人。20代前半を生きる若者が発したその言葉は、彼らの胸に深く深く突き刺さった。
「クレフ博士…」
彼の空虚な瞳は床に転がるペットボトルのキャップを見詰めていた。決してこちらと目を合わせようとせず
動きもしないキャップをじっと見詰めている。
「ジェ、ジェラルド博士…」
名前を呼ばれた時、少しだけ肩が跳ねた彼も今は天井のシミを熱心に数えている。目を細め、あれは穴なのかシミなのか、それを判断する為今までに無いほど集中していた。
「ブライト博士…」
猿はウキッと鳴いた。指先にはシュガーパウダー。
「い、いい歳した大人が謝罪の一つも出来ないなんて、ねぇ、恥ずかしく無いんですかッ、ちょっと、こっちを見て下さいよッ」
切実に語りかけるその声音には、微かに「上司が部下のお菓子を勝手に食べた挙句小学生でもしない誤魔化し方をする哀れな人間だと思いたくない」といった思いが込められていた。当然、この2人と1匹はそれに気付いていたが、今更引き下がれるかといった意地の方が強かった。
やがて、クレフ博士が顔を上げる。「おおっ」ブライト博士が声を上げた。
「…実を言うと、俺はお前が出て行ってからの記憶が全く無いんだ」
Aは目を見開いた。
「…ホラ、目を離すと移動する…コンクリートの天使像だって居るくらいだし、君のドーナツが勝手に動いて逃げたって、何にもおかしくないだろ?」
Aは目眩を感じ、傍にあった椅子へ思い切り尻もちをついた。それはイギリスのテレビドラマじゃないか、空想と現実の区別も付かないのか。そう言ってやりたかったが、きっと博士自身一番分かっているだろう。彼の顔は青ざめているんだか赤くなっているんだか、不思議な顔色だった。目は泳いでいるし。
「この2人が食べていたよ」
あっさりと仲間を売った猿に関してはもう何も言う事は無い。
「…食べたいなら、素直に言って下さいよ…」
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作者名:みや | 作成日時:2021年6月27日 10時