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48話 ページ3

細くて頼りないように見えた背中は意外にも大きくて温かった。


19にもなって人におんぶされるなんて……どうしても周囲の視線が気になってしまう。


恥ずかしさから砂色の外套に顔を埋めると、安心するような甘い匂いがした。


太宰にああは云ったものの身体は限界で、歩けるような状況ではなかった。


一瞬といえど身体が死ぬからだろうか、あの力を使うと1日は動くことがままならない。


おまけに強い睡魔が襲ってくる。


『太宰さん……』


「うん?」


何かを云おうと思っていたが、駄目だ、瞼が下がってくる。


瞳を閉じ身体を太宰に預けた。


_______

少女は一人立っていた


紅だけが色として認識できる、そんな花畑に


またどうせ此処の住人に絡まれるのだろう、と溜息をついた


何処から来るのかと身構える


「Aさん!」


だが、駆け寄って来たのは笑顔の敦だった


その顔につられて思わず頬が緩んだ


珍しい事に“ただの夢”のようだ





そんな思いもつかの間、急に敦の身体が溶け始めた。


目の前の出来事に頭がついていかない。


「Aさん…如何して?」



“これが君の望んだことなんだね”


右から声がすれば乱歩さんだったものが。


“何故だ、何故こんな事を”


左から声がすれば国木田さんだったものが。


怖くなって後ずさりをすると何かにぶつかった。


恐る恐る振り返るとそこには太宰さんがいた。


良かった、太宰さんだけは……


「Aちゃん、自分の手をよく見てご覧」


云われるがまま自分の両手を見る。


手にはナイフが握られていて、それは太宰の胸に深く刺さっていた。


紅い雫が刃を伝い柄から滴る。


『ちが…私じゃない!』


ナイフを引き抜こうとしているのに体が云うことを聞かない。


太宰も泥のように溶けていく。


いつの間にか私の周りには泥人形が沢山いて、それは声を揃えて云った。


“何故殺した、何故だ、何故お前が生きている”


『私だってこんな力求めてない!! 私が欲しかった力は誰かを守れる…兄さんを守れる…』


“お前に守れるものなんてない、お前は殺す為だけに生まれた”


『違う! 違う! 違うッ!』


耳を塞ぎ、目を閉じ、頭を振って声から逃れようとする。









「もう諦めなよ、判ってた事じゃん」









誰かの声を最後に全てが闇に包まれた。

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四月朔日(プロフ) - とても面白いです。続き楽しみにしています! (2017年4月17日 9時) (レス) id: fcc84377d6 (このIDを非表示/違反報告)
アサヤ(プロフ) - 雄牙さん» ありがとうございます! 更新頑張ります…! (2016年12月26日 23時) (レス) id: e442709ae5 (このIDを非表示/違反報告)
雄牙(プロフ) - とっても良いです!面白いです!最高です! 更新頑張って下さい! 応援してます! 頑張って下さい! (2016年12月26日 19時) (レス) id: 568d874e06 (このIDを非表示/違反報告)
アサヤ(プロフ) - χCielχさん» ありがとうございます!! 期待に応えられるよう頑張ります…! χCielχ様の方も盛り上がって来ましたね…! 朔くんはセシル君とはまた違った雰囲気があって好きです…! (2016年12月7日 23時) (レス) id: e442709ae5 (このIDを非表示/違反報告)
χCielχ(プロフ) - 続編、おめでとうございます!楽しく読ませて頂いております。これからも頑張って下さいφ(。。*) (2016年12月7日 18時) (レス) id: 8739b32233 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:アサヤ | 作成日時:2016年12月6日 23時

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