夢見草篇/これで充分 ページ23
それどころかそれを片手に持ったまま晋助はこちらに近づいてくる
思わず身構えたが刀を抜く気配は見えない
私の前まで来ると、切れ長の瞳が私を見つめた
「寒くなんかねェよ…羽織も要らねェくらいにな」
私の左手を掴み、自らの頬に優しくあてた
「俺ァ…これで充分だ。」
相変わらず冷たい肌
手にヒヤッとする感覚がし、私の手の温度がぬるくなっていく
晋助の行動に僅かに目を見開くが、
私も晋助の瞳を見つめたまま黙っていた。
根拠はない…だけど分かる。
私達がこうやってできるのはもう…
本当にこれが最後だ。
次会った時はきっと____
私は晋助に剣を向けなければいけない。
それを晋助もきっと分かっているんだろう。
「…冷たいじゃん。強がるな馬鹿」
晋助は鼻で笑い、ゆっくりと私の手を離した
私に背を向け、去っていく
どんどん私と晋助の距離はあき、背中も小さくなっていく
私はあの背中を追いかける資格も、引き止める資格も、もうない。
ただただ、見守るだけ。
どんな結果になろうとも。
たとえアイツが死んでも。
夢見草…もしも本当にあるのなら…
___どうか晋助と先生を会わせてあげて。
空いたアイツの心の穴を埋めるのは
アイツの背中を引き止めることができるのは
___先生しかいない。
これは、存在もしない幻の木に願いを込める女の
憐れで、無力で、けれども儚い、哀しい物語
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雪乃(プロフ) - 続き待ってます (1月15日 1時) (レス) @page25 id: 3057047a96 (このIDを非表示/違反報告)
美結菜 - とても面白いです!続き楽しみにしています! (2023年2月15日 19時) (レス) @page25 id: f842e5f119 (このIDを非表示/違反報告)
tmailes(プロフ) - 楽しく読ませていただきました。更新楽しみに待ってます! (2021年5月19日 1時) (レス) id: ece380cb29 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:あかお | 作成日時:2020年11月8日 19時