無意識のゼロセンチ ２

てっぺん ページ39

「今度、カシマスタジムで代表戦あんだよ」

そんなことを話したながら、金色の包み紙にくるまれたチョコレートキャラメルをひとつ摘んで聖真くんが言った。
聖真くんはまた時々、調理している私のところにふらふら〜っとやってきてお喋りをするようになった。

「Aちゃーん、今日、メシ、何？」

って言って厨房に入ってくる。


代表戦って言えば、私がテレビで観たことあるのは埼玉だったり大阪だったり。
カシマスタジムでは寮で働き始めてからは初めてだった。


「代表戦？どこと？」

「オマーン。予選じゃないよ、キリンカップね」

「よくわかんないけど日本代表の試合なんだよね？」

「そうだよ。サコさん、調子いいから呼ばれるかもね。うちからだと源とサプライズで亮太くんあたりが呼ばれんじゃない？」

「聖真くんも活躍してるよ」

「俺のポジションはねー、ライバルいっぱいいるからねー」


そんな風に言ってふにゃっと笑う。


「岳くんも呼ばれるかな」
口からぽろりと出そうになってつぐんだ。
そこはデリケートな部分だし、聖真くんだって返答に困るだろうし。

私の気持ちを読んだ聖真くんが「岳も今回は厳しいかな」と言った。
「海外でやってるとさ、移動が負担になったり、あっちの試合に出られなかったりしてリスクあんだよ。もうちょっと今のチームで頑張ればいいよ」とちょっとだけ真面目な顔つきで言った。


「Aちゃん、会いたかったでしょ？岳に」

「別に、私は」

「またまた〜。岳の代表戦、生で観たことないよね？」

「鹿島の試合しか観たことないよ」


日の丸を背負い、日本代表という誇りを胸に戦う姿は、鹿島や今のチームとは違って目に映るのかもしれない。
確かにそんな岳くんをカシマスタジムで観れたらいいな、観たいなと思う。
そしたら私はどんな気持ちでその試合を見つめるのだろう。


「それ甘いでしょ」

チョコレートの缶を物色している聖真くんに笑って言った。

「甘いね」

すこしだけ顔をしかめてカフェオレを飲みほしている。


「ブラジルのお土産なの、これ」

「ナオから？リオ土産？」

「クッシーから。甘すぎてなかなか減らないの」

「俺も1個でじゅーぶん」


聖真くんはまたふにゃふにゃっと笑って、金色の包み紙をきれいに折りたたむとゴミ箱に捨てた。

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