無意識のゼロセンチ ２

バックステージ３ ページ35

アウェイの横浜戦前、うっかり夏風邪を引いてしまった。
あれ？なんか調子よくないなーと思っていたら、あれよあれよと悪くなる。
週の半ばから腫れた喉の痛みに耐え家でひとり寝ていた。

暑いのに寒くて、お腹空いているのに喉の痛みか食べたくなくて、眠くないのにだるくて、布団の上に寝そべって目を瞑っていた。

クラブハウスや寮が大騒ぎになっているなんて全然知らなかった。


突然、大きな音が響き渡り、目を開くと一瞬ぼーっとして、それがけたたましく鳴る呼び鈴の音だなんて理解するのに時間がかかった。

廊下を這って移動すると、玄関の引き戸の磨りガラスの向こうから「A、生きてる？」の声が聞こえた。

ココ…！！

鍵を開けると、紙袋を提げたココは私の顔を見て「酷い顔してる」と眉をしかめた。


「熱は？薬飲んだ？食べれてる？」

そんな一度に聞かれても。

きっと私は今、くしゃくしゃの顔をしてる。

えーん。
心細かったよー。
ひもじかったのー。


「今、なんか作ってあげるから。袋の中にヨーグルトとかゼリーが入ってるから食べられるもん食べてな」

「ん…」


卓袱台に置かれた紙袋の中を見ると、桃のゼリーやレトルトのスープなんかが入っていて、スポーツ飲料のペットボトルを手に取った。
キャップを開けようと思っても力が入らない。

はは、もー、どれだけ体力ないの。

「貸しな」

私の様子を見に来たココに手渡すと、すんなり開けてくれる。

イオン水が私の渇いた体内に染み渡っていく。
んー、今ならポカリのＣＭに出れるわ、って言ったら「そんな酷い顔で？」とココが鼻で嘲笑う。

そんなに酷いかな、ってココのポーチから拝借したコンパクトを開いたら、わぁ…クマできてるし。唇もかさかさ。髪の毛ボサボサ。

「男いなくても女捨てたらだめ」

ココは粗相をした小さな子供を叱りつけるように私に言った。
男いてもいなくても私はこんなだけど、って自嘲気味に笑うと「Aっ！」とココが大きな声を出した。


「何で病気になったこと、連絡してこないの」

「だって」


商売しているし、小さいリンを育てているココにＳＯＳ出そうなんて考えもしなかった。

「クラハにお弁当届けたら、Aがずっと休んでるって聞いて」

それで知ったんだ。

「寮に顔を出したら、管理人のおばちゃんと植木さんが厨房立ってて」

みんなに迷惑かけちゃってる。

「困ってる時はちゃんと言ってよ、友達じゃん」

ココは淋しそうに私を見つめる。

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