無意識のゼロセンチ ２

そして、それから３ ページ25

やられた。
っっとに。覚えてろよ。


空港でスーツケースを預ける前に、Aから貰ったのど飴を出しておこうと取り出した時に、紙袋が目に入った。
聖真から渡されたってやつ。

なんだろ？
Aは本かなんかじゃない？と言っていたけれど。
それなら暇つぶしになるか。
なんとなくそれも手に取った。

離陸して生姜がピリピリと効きすぎるのど飴が小さくなった頃、やっとベルトを外してもいいよ、のサインがあり、ドイツ人のキャディンアテンダントがドリンクのサービスに回り始める。

バッグの中から買ってきておいた雑誌を取り出す時、かさかさと音がし、手に当たった紙袋を取り出した。

朝、会ったよな？
直接渡しゃあいいのに。

首を傾げながら紙袋を開け…慌てて袋に押し戻す。

ガサガサと大きな紙の音に気付いたのか、後ろにめっちゃ美人のＣＡさんがにこにこ笑って立っていたから超ビビる。

めいあいへるぷゆー？って。
いやいやいや。

ぶんぶん首と手を振って何でもないよアピール。

ちょっと、もー！
こんなもん、Aに託すなよ！
うっかり開けて見てたらどーすんだよっつー話だよ！
それも踏まえてのワザとだろ。

ピンクなDVD。
しょっちゅう寮の各部屋を回ってたけど。
ドイツまで回さなくていいから。
まったく。



でも。


うん、まぁせっかくだから使わせてもらうけど、しかし！


大きなため息を吐き出し、スマイルと一緒に貰ったコーヒーを飲みながら、雲の下にいる人たちのことを思った。

１st優勝の余韻に浸る間もなく、チームは次の試合に向けて始動した。
フワッとなりかけた空気をぴりっと締めたのはやっぱり満男さんだった。

「まだ何も成し遂げてねーだろ」

部外者の俺は他人事のように聞いていたけれど、俺の背筋も伸びた気がした。
何のために俺は慣れ親しんだクラブを離れ、ドイツに向かっているんだろう。
Jでもやれることはたくさんあるし、成長できるんじゃないか。
むしろそっちの方が自分にとってメリットが多いんじゃないのか。

窓の外は真っ暗で、窓ガラスに映る俺は虚ろな目をして、答えを求めようとしている。

A。
頑張っていた。
めっちゃ頑張ってたな。
意地悪な業者にも怯まず立ち向かってた。
何がブスだ。
この俺が好きだった女に向かってブスとは。

何も助けてやれなかったな。
こんな自分が情けなく、やっぱり今のままじゃ駄目だから、ちゃんと頑張ろう。

成し遂げるために。

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