無意識のゼロセンチ

ともだち４ ページ35

ほらほらよーく聞いてね、とググった『不法侵入』について私は読み上げる。


住居侵入罪は、正当な理由がないのに、人の住居など(人の住居若しくは人が看守する邸宅、建造物、廃墟や若しくは艦船)に侵入した場合に成立する。


「3年以下の懲役または10万円以下の罰金である。未遂も処罰される、だって。ここは和解で手を打ってもいいですよ？シバザキ容疑者」


岳くんは表情を変えずにじっと話を聞いていて 「不法、とは違うんじゃない。正当な理由…はあるよね？」とゆっくり言った。


「いつでも来てもいいよ、って鍵貰っていたし、それに」


Aに会いたくって行ったんだし。
それは正当な理由でしょ。


ちょっと。
もう。

もう、そんなこと言わないでよ。
昔の話だったとしても、ズルいよ岳くん。

私に会いに来てくれたいつかの岳くんを想像する。
私と連絡を取りたくて、携帯にかけても、棚の上から着信音が聞こえてきて、ため息を吐く。
もう少ししたら帰ってくるかも、ってゲームしたり本を読んで待っている。
そのうちうとうと寝ちゃって。
起きても私はいなくって、もういいや、って寮に帰る。

そんなこと、日常茶飯で取り立てて後で話すことじゃなかったのかも。
私だってきっと岳くんに話さなかったこと、たくさんある。


「いっぱいすれ違っていたのかもね」

「何が？」


何でもないよ、って言う私に
岳くんはそれ以上追求しては来なくて、「明日、このジャムを塗ったトーストを朝飯にするよ」と言った。


「評判のジャムだよ。今年は特別うまくできたの」

「知ってる。聖真がLINEしてきた。でもこっちのパンって日本で売ってるパンとちょっと違うんだよね」

「どんなの？」

「プレッツェルとか有名だけどライ麦が入ったパンとか、パウンドケーキみたいなのとか、サンドイッチになってたり、普通の６枚切りの食パンみたいなのは見かけないよ」

「それはそれで美味しそうよ」

「焼きたてのプレッツェルは美味かったよ」

「食べたいなぁ…」


じゃぁ、来れば？なんて事を岳くんは冗談でも言わない。
そして私もそんなこと言われても困るのだけれど。

だから会話は尻切れトンボでどちらともなく「じゃあね」と言ってSkypeは切れた。
しかし「じゃあね」という会話は次に繋がるということで、私はそれを少し楽しみにしている。
だって友達とのお喋りはいつだって楽しいのだから。

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