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2話 ページ2

「あら、先約?」

突然、背後から聞こえた声に一瞬のうちに胸が詰まる。ひっ、と吸い込んだままの息を止めているせいで肺が痛い。 声の主を見ようと、たどたどしい動作で振り返ると、夢ノ咲学院独特の青空のようなブレザーに細身の体を包む、男の人の姿。

北風でサラリと流れる色素の薄い髪と陶器のように滑らかで美しい肌。男性だけど『綺麗』としか形容できないその人は今にも消えそうで儚い。

「あなたも、ここに大切な人がいるのね」

「……え?」

予想外の言葉に思わず声が出る私に、ふふっ、と羽がふわりと舞うような微笑みを向けて、その人は私との距離を詰めた。長い脚が真っ白な地面をサクリサクリと踏む。歩くだけでもその人はひとつの絵になっていた。

私の隣に立つと、その人は慰霊碑を愛おしい目で眺めながら、ほぅ、と息をつく。

私の目に映る、麗しい横顔と長い睫毛。
濁りきった曇り空の下でも輝きを放つ、綺麗なその人に触れるのは危険に感じた。ふわふわとした柔らかい雰囲気の中にピリピリとした警戒心が張り巡らせていたのだ。

邪魔してはいけない、と思った私は黙ってその場から踵を返して、走り出した。歩いていれば長く感じる道も走ればあっという間だ。少しずつ明るさを増していく周りが眩しく感じた。

「わっ!」

思わず小さな声が出る。体がよろめいて、地面に転んでしまった。ちゃんと前を見てなかったせいで、誰かとぶつかってしまったらしい。

「失礼、大丈夫ですか?」

今度は私の声ではない。落ち着いた男の人の声が頭上から聞こえた。顔を上げると、黄昏色の紅髪が特徴の小柄な少年が私に手を差し伸べていた。それに加えて、雲から差し込む光で輝きを放つ姿はまるで王子様みたいだ。

「あの……?」

「あっ、す、すみません!大丈夫です!」

心配そうな声にハッとする。目の前の見知らぬ人の顔をまじまじと見ていたという状況に顔に熱が集まる。穴があったら入りたい、というのはこういうことなんだろうか。

差し伸べられた手を掴もうか躊躇ったが、思いきって手を重ねる。紅髪の彼の手は少し冷たかった。
足に力を入れて立ち上がり、彼にありがとう、と伝えようと口を開いた途端、横から弾むような明るい声が音を奏でた。

「なぁなぁ、これってお前が書いたのか?」

女の子のような愛らしい風貌の顔が興味津々と強く主張しながら、グイッと私の顔の目の前に差し出されたのは黒文字で埋まった教科書やノートだった。

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F:(プロフ) - あたたかいコメントありがとうございます。空白の件に関しては、バランスよく間をとって書いていく、ということに決めました。拙い文ばかりの作品ですがこれからもよろしくお願いします。コメント欄での返信、失礼しました。 (2020年2月5日 10時) (レス) id: 722605b18e (このIDを非表示/違反報告)
Mashiro Lio(プロフ) - コメント失礼します。空白のことですが、今のままで大丈夫だと思いますよ。確かに適度な空白は読みやすくなるでしょうが、あまり多いと逆に読みにくくなりますし(占ツク内のかなり多くの作品がこれに当てはまります)、私はこれくらいが「小説」らしいと思いますよ。 (2020年1月11日 21時) (レス) id: 088a429c13 (このIDを非表示/違反報告)
みゆ(プロフ) - コメント失礼します。あくまで私個人の意見なのですが、言われてみれば他の作品より空白少ないかも…?程度で、気になってしまうほど読みにくくはないですよ! (2020年1月11日 20時) (レス) id: b98ca5a8bc (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:F: | 作成日時:2019年12月25日 16時

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