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本当の先生に戻って欲しい。大好きだったあの優しい目、ふにゃりと笑うあの顔、男性にはもったいないくらいの白く透き通る肌も今は血で汚れてしまっている。
「卒業までに答えがわかる。お前も自分から開放される時が来るはずだ。」
背中を丸め床に突っ伏し泣くAの背を優しく撫で泣き止むのを待つ。10代にこんな惨殺的な現場をみせるのは不味かったかと内心反省する。しかし人間としてまだ未熟な生徒たちに自分が命をかけて何が出来るか考えた。何度も最善の方法をひねり出そうと寝るまを惜しんで考えたが結局この方法しか思いつかなかった。ああ、もしかしたら一番未熟なのは自分なのではないか。そうとすら思えてくる。生徒を人質に取り、何人もの生徒を泣かし、悪くいえば体罰を与えて怯えさせ支配する。
目の前で泣きじゃくるAを見つめても正解はわからない。咄嗟に慰めてしまうのはただ前のように笑顔になって欲しかった。
...やはりこの方法は失敗だったか。
そのとき彼女は先生の撫でていた手を持って強く、強くにぎりしめた。
「せんせ、ごめんなさい。」
どうしてお前が謝るんだ。その言葉は喉に詰まったまま声にはならず、ただ表情を殺すため歯を食いしばり俯く。
Aの顔は床に突っ伏したままだから顔は見られていない。どうして、どうして謝るんだ。
「先生はきっと、悩んで悩んでこの方法にしたんですよね...?中尾くんにしたことは信じられないけどっ、先生が悩んできめたこと、なんですよね...?」
「...ああ。」
悩んで決めたさ。だから本当の事をいうつもりはなかった。でもAの事を想うとどうも上手くいかない。なにもかも上手くいかない気がする。
「もう夜も遅い。みんなも心配してるだろ。雑魚寝で悪いが...、」
「はい...。」
廊下へ続く扉をあけるまえに彼女は振り返り小さな声で信じてますからといって小走りで教室へかえっていった。
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作者名:ゆゆたま | 作成日時:2020年4月9日 1時