伝染サテライト�� ページ9
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『あの、話したいことたくさんあったんだけど、』
あれもこれもと、いっぱいいっぱいになって、辿々しくそう告げると、他の誰からも聞いたことがないくらいに低く優しい声がした。
『いいよ、時間の許す限り、何でも聞きたい。』
ああもうこれじゃ言葉の魔法使いは彼の方だ。
優しさにくらくらする。
痛いほどに大切にされていることが伝わってくる。
息が詰まって心臓がうるさくて。
『すき、だなって』
『…ん、っ？』
『ああ違う間違え…てないんだけど違くて、あ、違わないんだけど…』
もう自分でも何を言っているか分からなかった。
『あれこれ話したいことがあったんだけど、でも実は内容はなんでも良くて、声が聞きたくて、安心したかっただけなの』
焦りに焦って一息に告げる。
『毎日ぐるぐる考えて、考え過ぎて分かんなくなっちゃって、でも電話して声聞いて、言葉聞いたらもう』
好きとしか言えなくて、までは声に出せなかった。
けれど、それもお見通しかのように、砂原は全部言ってるし、と笑った。
『あっはは、…ほんと、トロいのな』
その一言が懐かしくて。
言ってる砂原自身があまりに嬉しそうだったから。
『…くくっ、…ふ、はは…』
ただその笑い声を聞いていたくて、受話器に耳を押し当てる。
どれだけ機械を近づけても、縮まらない距離がもどかしい。
けれどだからこそ、彼の吐息一つ一つが意味を持つ。
せめて余さず、聞きたい。
『…あ、アーヤ？…怒った？』
『ううん、独り占めしてた。』
『そ、れは、なんか照れる』
間髪入れずに返すと、自分はいつももっと甘い台詞を言うくせに、柄にもないことを言う。
仕返しだよ、なんて。
電話の向こうに、はにかんだ顔が見える気がした。
．
『…。』
『…。』
雰囲気に酔いそうになって、
自然と押し黙る。
それでも、負けじと、ん゛ん、と咳払いして恭しく
『…なぁ。また、言ってくれる？』
なんて尋ねる、砂原の声はやっぱりとびきりあたたかい。
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作者名：祈島世字 | 作成日時：2023年9月14日 17時
