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「もちろん水ぶっかけ返したんだけど」
「さすがのバカ武だ」
「めっちゃ怒って胸ぐら掴まれた瞬間やべえって思って」
野次が聞こえなかったかのように話を続ける若武。
「そこで？」
「そう、肩越しにボールの軌道が見えてさ。あ、って思ったら、目の前の先輩が頭押さえてうずくまって。当てられた先輩もさ、振り返るだろ？」
瞬間、堪えきれないとでもいうように2人が肩を揺らす。
「っく、く」
「やべえ面白い」
「黒木と上杉がお腹抱えて笑ってるけど、知ってるの？」
「「ああ…傑作だぜ」」
「ボールがまた飛んできて振り返った顔にクリーンヒット。」
立花は、蹴った人はコントロールが抜群なのね、と言おうとして口をつぐむ。
「しかも、よりによって泥まみれのやつ蹴ったから顔がもう悲惨なわけ。」
「てかあれわざと泥ついたやつ使ったんだろ」
「策士ね」
今度は声に出した。
小塚と上杉、黒木は立花の少しズレた思考を読んだのか顔を見合わせてクスクス笑っている。
「それでさ。その犯人が、すなーらだった」
話の流れで察しがついていたとしても、初耳のメンバーは一同に驚く。
サッカーをしているイメージも、当時接点の少ない若武に絡むイメージも無かったからだ。
「極めつけにさ、あいつ駆け寄ってきて。先輩じゃなくて俺の方に来やがったんだ。
まるでそこにいないかのように通りすぎて、"うわあ俺が当てちまったばかりに！KZ 1人気のエース若武和臣の口に怪我させるなんて、本当に申し訳ない"…だってさ、もう唖然茫然。」
2発共先輩に当ててるくせに無かったことにして俺に当てたことにしてさ。
うわぁ、と誰かが声を漏らした。
「みんなに誰にやられた？って聞かれたら砂原翔って答えてくれよ、謝り倒すから俺って。」
その言葉でその場の全員にわかった。
不可解な行動の意図が。
「言われた瞬間、こいつは俺のプライド守ってくれたんだろーなって分かってもう、さ。
あのときの鳥肌忘れらんねえよ。」
「その後周りにも行く先々で腫れてる口について聞かれたんだけど、毎回砂原が俺がやりましたすみませんって名乗り出てさ。
先輩の方はちっとも触れねーのな。
ぜってぇ先輩の方が重症なのに、そっちは首傾げて知らんぷり。」
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作者名：祈島世字 | 作成日時：2023年9月14日 17時
