伝染サテライト�� ページ11
．
『もう一回しよ。録音するから』
あのねぇ。
『心配してるんだよ？今すぐ大人しく寝て。』
『だって、』
『録音しなくても死ぬまでに何度も聞けるから』
『え？』
『あ、』
『っ、俺、長生きす、』
やらかした、と思うより先にガチャン、と電話を切った。
そのままずるずると冷えた廊下の壁に背を預ける。
「…はぁー…」
これで良かったのか、もう一押し、言えば良かったのか。
自分自身が1番驚いている。
今更、風邪を引くために長生きしてどうするの、って途切れた声に向かって叫びたかった。
頬に集まった熱は一向に冷めない。
少なくとも、
「思い切って、電話して、よかった」
掛けたことに後悔はない。
それ自体に後悔はないのに。
「…砂原君、大丈夫かな」
自分が看病したかった、なんて言っても困らせる。
病気も怪我もしてほしくないよ。
1番に心配したいよ。
けれど、私たちには言えない言葉が多すぎる。
だから、ひたすら想いだけが募っていく。
．
どうか、いつの日か。
できれば遠くない日に。
自分の風邪を移す心配をして、
罹る前に気がつくほど共に時間を過ごして、
それくらい、それくらい近くにいたい。
近く、ちかくにいたい。
それはもう、熱が伝染してしまうくらい。
サテライトなんか、必要ないくらいに。
．
．
＿＿＿＿＿＿
「…っくしゅん、…」
「彩、廊下で何してんだ。風邪引くぞ」
「…私も引いたかも」
「も？誰かに移されたのか」
「うん。…電話越しに」
．
＿＿＿＿＿
「おい、砂原。こんなとこで携帯抱えてどうした？」
「プロポーズされた…かも」
「はぁ？熱で頭やられたか…」
「自室で寝てろって」
「…いや、この熱は冷ましたくないんだ」
＿＿＿＿＿＿＿
続く
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作者名：祈島世字 | 作成日時：2023年9月14日 17時
