夜明け前 ページ1
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午前三時五十分。
夜だけど夜じゃないし、朝だけど朝じゃない。
冬ならば真っ暗な空は、もう朝日を迎える準備を始めている。
今日の日の出は四時二十分だと、携帯の天気予報アプリが教えてくれた。
もちろん、いまから就寝する訳ではない。
受験期じゃあるまいし。
なんて、どんなテスト前も二時をまわるほど起きていた日はなかったのに。
事件を追いかけて夜遅くなったときや、夜通し電話をしていた日くらいかもしれない。
『…長期で帰ろうと思うんだけど、忙しい？』
はるか海の向こうから届いた声を思い返す。
半年前のことだった。
それまでは定期的に、それこそ夜中まで電話をしていた彼がパタリと連絡をよこさなくなって、何かあったのではと不安になっていた矢先だった。
現地や基地の電話を使っていたためこちらからかけようにも番号が分からない。
携帯はどうも海外用のSIMに差し替えていないみたいだった。
『一月以上の間、なにか、あったの？』
『ん、ちょっとバタついててさ、それも含めて会って話がしたい』
『わかった、いつでも空けるよ』
本当は資格の勉強や仕事で忙しくて、kzのみんなともまともに会えていないくらいだった。
『ありがと、そっちついてからまた連絡するよ』
あ、引っ越してたりする？、と尋ねる彼に電話越しに首を振って否定する。
……それから私が空港に彼を迎えに行ったのは一週間も経っていないときだった。
『おかえりなさい、か、すな、…翔。』
『ふ、ただいま。彩。』
あのときは面と向かって名前呼びするのが急に恥ずかしくなって、笑われてしまったなあ。
「おかえりなさい、翔。」
薄暗い部屋の中、声に出す。
今なら、
翔が隣で寝ている今なら、すんなり言えるのに。
＿＿＿＿そう。
砂原翔は、いま、私と一緒に生活をしている。
『解散したんだ』
そう聞かされたのは再会直後の、空港近くの飲食店で食事をしている時だった。
『そのうち黒木から情報まわるだろうから、先にな。』と。
彼の居場所だったはずなのに、翔はなんだか他人事のように話した。
帰国した理由と一か月以上連絡が取れなかった理由が同時に現れて突拍子がなくて、なんだか現実味がなかった。
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作者名：祈島世字 | 作成日時：2023年9月14日 17時
