十九個目の火の玉 ページ19
振り返ったAちゃんはそういえば、と話し始める。
｢鯉登さんは私が物の怪だと、そう言ったな。…それは正解だ。｣
｢えっ｣
｢なに！？｣
｢私は古戦場火という妖だ。｣
Aちゃんは手袋を外して足元の雪を一掬いする。
たちまち雪は溶けて水になるどころか蒸発してしまった。
｢この通り私の体は火の玉同然。触れれば火傷を負う。無闇に触れないで欲しい。｣
｢あの鉄のプレートも溶かして割っただけだ。｣
そうして周りに火の玉を浮かべてみせるAちゃん。
赤いと言うよりは紫色に近い火の玉。
目の前で起こってることが信じられない。
｢妖って、ほ、ほんとに…？｣
｢ああ、本当だ。火傷覚悟で触ってみるかい？｣
恐る恐る聞くとすいっと目の前に火の玉を飛ばすもんだから思わず体を仰け反らす。
｢鯉登さんが私の拳の炎を見えたのは驚きだった。普通の人なら見えない。とんでもない動体視力だ。｣
｢ぅ、褒められているのに……なぁ、…。｣
複雑な顔をする鯉登少尉。
だけど確かに俺はAちゃんの炎は見えなかったからなあ。
だからクズリのときも一人でいいって言ったのか……。
……。
｢っ、……でも、危ないことをしちゃダメだよ。｣
｢！｣
俺がAちゃんに目線を合わせて言うとまん丸の目をさらに丸くした。
｢心配は無用だ。私は強い。｣
｢でも！｣
｢私を子供扱いしないで欲しい。｣
むっとしたAちゃんとアシㇼパさんが重なる。
彼女も必死にアイヌを守ろうとしていた。
大人の俺たちに遅れないように……。
……その手を引いてやれなかったのは俺のせいだ。
そんな失敗を繰り返したくない。
｢……ごめんな、そうだよな。Aちゃんは強い。｣
｢ああ、こんな見た目だが前いた場所では最前線を駆けたものだ。｣
前いた場所、そういえばAちゃんって倒れていたのを助けられたんだっけ。
｢話を戻そう。鯉登さん、私が鶴見さんを唆したと言ったが残念だがそれは不正解だ。｣
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作者名：きょーりん | 作成日時：2019年3月23日 21時
