☆ ページ38
それは、初めての瞬間だった。
初めて他人にこんな顔をされたと思う。
しかもそれは、私に向けている。
癖になってしまいそうな柔らかな表情に、感動を覚えた。
救いの手なんて、一生ないと思っていた。
だが目の前の彼からは私を救ってくれそうな、そんな自信という自惚れが湧き上がった。
「____」
ツーっと、目頭が熱くなったのを後に、何かが頬を伝った。
「え!!!い、あ、いやっ、泣かせるつもりは…!!」
泣いているのか、私。
こんな大の大人になって、汚い格好で地べたに座り込み、見知らぬ男の前で無防備に泣くなんて。
涙するって、こういう感覚なんだ。
泣いたことなんて一度もない。
自分は涙よりも根性だった。そう育てられていた。
泣く暇があるなら行動しろ、と母の言葉がまた木霊した。
目の前の彼がいると、そんな母の言葉は無意味に感じる。
何が強さだ。何が根性だ。
母の教えとは、何なのか。
この男のせいで、母の存在がもっともっと遠くになっていくではないか。
やめてくれ、この感覚、たまらない。
この男が、大きな存在に見える。
助けを乞うつもりなんてなかったんだ。
泣くつもりもなかった。
他人には頼ってはいけない。
自分に生きる価値はない。ごみ同然だから。
なのになぜ、そんなに優しいんだ。
合理的に考えれば、私に時間を尽くす意味など全くないじゃないか。
__そんな彼の、たった一言に、理性を奪われるなんて。
涙はそれでも止まらず、私は彼に愕然させられるであろうほどの嗚咽を、その後幾度も繰り返した。
72人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
5674C(プロフ) - Umiさん» 嬉しいです!ありがとうございます!! (2022年3月4日 10時) (レス) id: e6d0696709 (このIDを非表示/違反報告)
Umi(プロフ) - めっちゃキュンキュンしてしまいます(˶'ᵕ'˶) (2022年3月3日 16時) (レス) id: a9ba311e8f (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:5674C | 作成日時:2021年11月17日 2時