第22話 ページ22
*
診察室を出ると、壁に寄りかかって私を待つ七海さんの姿が見えた。
いつもの真っ青なYシャツは、怪我の箇所だけ赤黒く染まっている。
それを見て、先程家入さんから受け取った包帯をキュッと握り締めた。
七海は頑固だから、と家に帰ったら手当をするよう言い聞かせられたのだ。
「…帰りましょう、七海さん。」
「……ええ。」
幾分か気まずい空気に飲まれかけながら、伊地知さんの運転する車に乗り込み、家へと向かう。
その間も、私達はお互い無言のままだった。
その気まずい空気の中、車を運転してくれた伊地知さんにお礼を言って、七海さんと少し距離を置いて玄関へと入った。
リビングに入り、七海さんにソファに掛けるよう促して、包帯を手に取る。
その包帯を見て、彼は手当をしやすいようにする為だろうか、血に染ったYシャツを脱ぎ捨てた。
鍛えられた体が顕になり、それを見たと同時に顔が火照っていく。
赤くなっているであろう顔を見られないようにそっと俯かせてから、手当を始めた。
「………どうして、帰らなかったんです?」
消毒を終えて包帯を巻こうとすると、そんな声が上から聞こえて来た。
疲れているのか、その声は少しだけ掠れている。
「…ごめんなさい、急に仕事ができてしまって。」
「…そうですか。」
少し無愛想過ぎたかもしれない。
そんな申し訳なさに、チラ、と頭上にある七海さんの顔を伺ってみる。
「…っ、」
その一瞬で、彼の私を見つめる瞳から目が離せなくなってしまった。
それは、どうしようもないくらいに優しい眼差しだった。
七海さんのその眼差しを捕らえた途端、堰き止めていたはずの涙が頬を伝い始める。
大粒の涙が、不格好な嗚咽を伴って外へと一気に溢れ出した。
「ごめん、なさい…っ、私…!」
「どうしてAさんが謝るんです、」
必死で涙を拭っていた私の手は、クスッと小さく笑った七海さんの手のひらにいとも簡単に収まって。
「貴女が無事だっただけで、それだけで私は十分ですよ。」
キュッとその暖かくてゴツゴツとした大きな両手に包み込まれてしまっては、それを振り解くことなんか私にはできやしなかった。
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森 - ↓なな…なんと… (2022年2月24日 23時) (レス) id: d826e852a9 (このIDを非表示/違反報告)
emi(プロフ) - 森さん» 森様、てぇてぇ頂きました!笑 お察しの通り最後のシーンはハロウィンの直前でございます…これからの二人のことはご想像にお任せ致します… (2022年2月21日 12時) (レス) id: 9ba5ed02ee (このIDを非表示/違反報告)
森 - てぇてぇな〜‼ ところで、これは2018年でしょうか?(ハロウィンもあっちゃったりしちゃいます?) (2022年2月19日 1時) (レス) @page3 id: d826e852a9 (このIDを非表示/違反報告)
たろ。(プロフ) - emiさん» ひぇ、、なんと……(震」 (2022年1月27日 18時) (レス) id: ba071d904f (このIDを非表示/違反報告)
emi(プロフ) - たろ。さん» たろ。様、コメントありがとうございます!何だかんだ五条先生は後輩思いだよなという私の解釈を盛り込ませていただきました笑 実はこのお話の後、あのハロウィンが来てしまうのです……(トラウマ) (2022年1月27日 17時) (レス) id: 9ba5ed02ee (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:emi | 作成日時:2021年3月3日 6時