アイドルとオタクとマネージャー∞

32.意識する(横山) ページ32

列に並びながら、遠目にAを見つつ、さっきまで撮った写真をカメラのディスプレイで確認して時間を潰す。

カメラにハマったのはほんの少し前で、あのライブでこのカメラは初めてお披露目させて、最後まで撮っていたのはほぼリーダーやった子で。

Aの写真は、最後の。

崩れ落ちたところがたまたま撮れてしまったのが1枚目。

この写真を撮るまで。

あの日、特典会でチェキ列に並ぶまで。

正直Aのことなんて意識もせずに過ごしてたから、ある意味で今日がちゃんと接触するのが初めてやねん。


「むっちゃ緊張するな」


1人の呟きは誰にも届くわけなんかなくて、なんだかそわそわしながら、それを隠すようにカメラをずっと弄ってると、少しずつ列が進んでいて、


『お待たせしました』


「お、、、おぅ」


『今日、来てくれてありがとうございます』


きっと、今までもこうやって笑ってたAやけど、そこに気がつかなかったのはなんだか損してた気分にもなりながら、それでも他に推しがいたんやからしゃーないことやと自分に言い聞かせてた。


『ん？』


心ここにあらずのような俺にAが不思議そうな声を漏らすから、


「なっ、、、にゃ、にゃんでもないっ！」


焦る言葉は噛み噛みで、一瞬の間があってからAの頬が緩んでいく。


「なんでもないっ」


改めての否定の言葉はAを笑わせることへの後押しになって、そして、


『裕ちんってなんかもっと怖いイメージだったけど、そんなことなかったな』


常に1番後ろ陣取ってたらそう見えてたんかと改めて知って、そして、その印象を崩せたならこれはこれでよかったのかなと気持ちが変わる。

33.まだ言葉にはしない(横山)→←31.平和すぎるくらい(安田)

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す