消えた自転車は知っている＊2＊ (ページ28)

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本当に大人な黒木クン・アーヤSide ページ28

「この間、グラウンドでトライするとこ見かけたけど、すごかった。男なら誰だって、あんなふうになりたいと思うよ。」

黒木クンが、ちょっと笑った。

「それに、モテるんだ。中等部や高等部の女たちが、よるとさわるとウワサしてる。」

上杉クンが、大きな息をついて、天井をあおいだ。

「先週のテストじゃ総合トップだった。東大の理三は確実だって、先生が言ってたぜ。」

そうして男子たちは、みんなでそろって私のほうを向き、あこがれて愛情の入りまじった目で私を見つめて、いっせいに言ったのだった。

「お兄さんによろしく。」

はんっ！
(P１４８)

私は、ガタンと立ちあがって、教室の外に出た。

みんな、知らないんだ。

お兄ちゃんが、いつもどんなにムスッとしているか。

どんなにママや私や奈子が、気を使っているか。

私なんて、たいてい口もきいてもらえないんだもん。

そりゃ、昨日は少しやさしかったけれど、でも、いつもは×。

「待てよ、立花。」

黒木クンが追いかけてきて、私と肩を並べた。

「なにムクれてんだ？」

「別に。」

そっけなく言って私は、心の中で思った。

やさしいお兄ちゃんがほしいな。

カッコ悪くても、成績悪くてもいいから。

うんと私を甘やかしてくれて、かわいがってくれるの。

「変なヤツ。」
(P１４９)

黒木クンは、私の頭をコンコンとつついた。

「機嫌なおせよ、アーヤ。」

私は、びっくりして黒木クンを見た。

だって、私のニックネーム、教えてないはずなのに。

黒木クンは、クスッと笑った。

「ちがった？」

私は、首を横にふった。

「合ってる。どうして知ってるの？」

黒木クンは、その目に思いだすような甘い笑いをにじませた。

「アヤとかアヤコとかって女の子は、たいていそう呼ばれてるよ。アッちゃんとかね。」

へえ。

「黒木クンって、女の子にくわしいんだ。」

「まあね。」

さりげなく答えて黒木クンは、階段をおりながらブルゾンの胸ポケットからリストを出した。

昨日、若武が書いた、うらみを持つ人間の一覧表だった。
(P１５０)

ところどころに、青いマーカーでチェックがつけてある。

「なに、それ。」

私が聞くと、黒木クンは、ちょっと眉根をよせた。

「これから調査を必要とする人物。」

リストには、全部で３０人ほども名前が並んでいたのに、チェックは、ふたつしかついてなかった。

私は、おどろいて聞いた。

「残りは？」