消えた自転車は知っている＊2＊ (ページ24)

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若武の魔法・アーヤSide ページ24

そのときには、私の心は、もうすっかり若武に染められてしまっていた。

私は、自転車を盗んだのは強盗にまちがいなと固く思いこんでいたのだった。

それが若武の魔法だと気づいたのは、お兄ちゃんの意見を聞いてからだった。

私が、お風呂に入ろうとしてトントンと下におりて行くと、ちょうどお兄ちゃんが鍵を自分であけ、玄関から入ってくるところだった。

高校生になったとき、お兄ちゃんは、ママから家の鍵をもらった。

私は、それを、とてもうらやましく思った。

鍵をもらうってことは、大人たちから認められたことのように思えたから。

お兄ちゃんは、大人の仲間入りをしたんだ。

そのとき、わたしはそう思った。
(P１３９)

でも、そんなお兄ちゃんでも、強盗と出会ったことはまだないにちがいない。

私は、自分のすごい体験を自慢したくなって、靴を脱いでいるお兄ちゃんに言った。

「今日、コンビニに強盗が入ったのよ。」

お兄ちゃんは、チラッと私を見ただけで、なにも言わずに上に上がり、私のわきを通りすぎて行こうとした。

私は、お兄ちゃんをおどろかそうとしていっきに言った。

「その強盗、秀明の西側に置いてあった私の友だちの自転車を盗んで逃げたの。結んでおいたチェーンを引きちぎってね。」

お兄ちゃんは、ふと足を止め、私を見た。

「どこの誰が、チェーンなんか引きちぎれるっていうんだよ。」

その言い方は、つっけんどんだった。

でも私は、とにかくお兄ちゃんが答えてくれたのがうれしかった。

やっぱり本物の強盗の力って、すごいのかもしれない。

そう思いながら私は、はりきって言った。

「友だちは、相当な力の持ち主だって言ってたわ。」
(P１４０)

お兄ちゃんは、バカバカしいといったようにせせら笑った。

「おまえらガキには、常識ってもんがないんだな。いくら相当な力の持ち主だって、チェーンなんか切れるもんか。」

私は、びっくりしてしまった。

「だって、誰かがちぎったことはたしかなのよ。」

「力の強い動物とか、たとえばゴリラなんかなら話は別だが。」

私は、二度びっくり。

お兄ちゃんが、若武と同じこと言うとは思わなかった．．．．．．。

「お兄ちゃん、もしかして最近、『サスペンス傑作集』読んだ？」

私がおそるおそる聞くと、お兄ちゃんは、ちょっと赤くなった。

「読んでちゃ悪いのか。」

私は、息をのんでお兄ちゃんを見上げてしまった。