消えた自転車は知っている＊2＊ (ページ19)

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８☆もうひとつの事件・アーヤSide ページ19

(アーヤSide)

それから私は、自分に割り当てられた２番のいやがらせのセンを調査するために、パートナーの黒木クンと話し合おうとした。

けれどもその日はもう遅かったので、明日、学校から帰ってきてから電話で連絡を取り合うことに決め、とりあえず家に帰ることにしたのだった。

私が、自分の秀明バッグに秀明のテキストと、江川先生が持ってきてくれた特別クラスのテキストとを入れていると、黒木クンが、ちらっと自分の腕時計を見、私に言った。

「立花、遅いから送っていこうか？」

私は、びっくりして手を止め、まじまじと黒木クンを見てしまった。

同い年の男の子からそんなことを言われるのは、初めてだったから。

私は、なんて答えていいのかわからず、あぜんとして黒木クンを見つめるばかりだった。

もちろん、若武も上杉クンも、ぼうぜんとして黒木クンを見ていた。

小塚クンの目なんかは、これ以上丸くなれないほど丸かった。
(P１２６)

だって、遅くなったら、みんな少しでも早く帰りたい。

でないと、家の人にしかられるもの。

だから普通は、どんどん先に帰ってしまうの。

誰かを送ろうなんて思いつきもしないし、送られようなんて考えもしない。

つまり、みんなが想像もしていなかったようなとんでもないことを、黒木クンは、とつぜん言ってのけたのだった。

送っていこうか、だなんて。

その時、神田さんがさらに驚くべきことを言ったのだった。

「なにみんな、びっくりしてるの？わたし、いつも送ってもらってるよ？」

「真実、今日は大丈夫？立花のあとでいいなら送っていくけど。」

「別にヘーキ。わたしが強いの、貴和知ってるでしょ？」

「まあね。じゃ、ごめん。」

「別に貴和悪くないから。」

そんな２人の会話を聞いて、しいんと静まりかえる教室の中で、黒木クンは、私たちの視線を一身に受けながらきまり悪そうなそぶりも見せず、手早く自分のパーカーを引っかけると、片方の肩のにバッグをかつぎ上げて、もう一方の手で私の腕をつかんだ。

「行こ。じゃ、お先に。」

「おん。バイバーイ。」

みんなに言い、神田さんの声を聞きながらクイッと私を引っぱって、足早に教室の外に出る。

「なんて顔してんだよ。」

こっちをふり返って少し笑った目が、大人っぽかった。

それは、今まで私が、誰からも向けられたことのないような目だった。
(P１２７)

あでやかで、みずみずしく美しい。