病を治すはずなのに【イゾウ】 (ページ8)

今日:9 hit、昨日:18 hit、合計:3,005 hit

秘密裏2 ページ8

ティベイを睨んだのなんて乗船初期を除いては数えるほどしかない。だからかティベイは汗をひとつ流して去っていった。

Aには適当に誤魔化して、各々好きなことをし始める。手を動かしながらも考えるのはAのこと。

俺が居ない時にAに接触されたらどうしよう。Aは嘘をついていた俺をどんな目で見るんだろう。嫌われてしまうだろうか。

「なあ、A」

『ん〜？』

Aは手元から目を離さず返事をする。

「俺はAが好きだ」

『ありがと、私も大好き』

Aは俺が尋ねなくても「好き」と言ってくれる。好きと言えば絶対に返してくれるし、愛してると言えば照れたように笑って『私も愛してる』と言ってくれる。
大丈夫。Aが俺を嫌うなんて、あるわけないだろ。

でもAが俺だけを見ててくれたとしても、Aを見るのは俺だけではない。それが俺は堪らなく苦しい。
どこかの誰かにAは見られていて、そいつの目に写るAがどんな表情をしているのかを俺は知らない。もしかしたら俺が見たことのないような表情かもしれない。

そいつから見たAを俺は知ることができない。【恋人】のAは知っているけれど、【友達】は？【敵】は？【他人】は？
そこにはどんなAがいる？
絶対に会えない、世界線が違うような感覚。
俺が知らないAを知っている奴が居るなんて許せない、それも外に出したくない一つの理由。

あ、Aが立った。

「どこ行くんだ？」

『お手洗い』

なんの警戒もなく扉を開けようとするから、ドアノブにかけた手に自分の手を重ねて、外の気配が通り過ぎるのを待った。

『どしたどした』

「廊下歩いてるやつにぶつかるとこだった」

『成る程、ありがとう』

微笑んだAが俺にとっては綺麗すぎて、沢山の命を奪ってきた汚い手をすぐに引っ込めた。

パタン…とAは部屋を出て扉を閉めた。

どうせ汚れている手なら、大切な人の手を汚させないために使おう。
Aを奪いに来るなら来い。俺の命を盾にして守ってやる。俺の体を武器にしてぶちのめしてやる。

例え誰であろうとも