体当たり2 ページ22
Aは涙を袖で乱暴に拭うと俺の手を握って言った。
『痛そう…大丈夫?』
「A…!なんで…ごめん、俺は」
『いいのいいの。…いや、サッチを殴ろうとしたのは良くないけど』
Aは微笑んでいる。嫌われたのかもという心配も、全部吹き飛ばすような笑みだった。
『イゾウさんはさ、私がいなくても生きていけるよね?』
「は?ふざけたこと言ってんじゃねェよ」
流石にこれには声を荒げそうになったが、ここで何かしでかしたら俺は多分Aに呆れられてしまう。
Aの様子がいつもと違う。何かを見据えて、真っ直ぐ見てくるから顔を逸らした。
『ううん、生きていけるよ。イゾウさんは強いし、本来私なんかに縛られていい人じゃない』
俺は縛られていない。どちらかというとAを縛っている。何を言っているのか分からなかった。
『私たちはもっともっと良い関係を築けると思う』
「もっと…良い関係?」
「お前気づいてるか?」
マルコが間をおいて話すので、その一瞬の静寂が緊張感を高める。
「最近はずっと辛そうだよい。海賊のくせに自分で自由を奪いやがって」
みんなから責められているような気がして居辛い。
俺はただAを危険から守りたかっただけ。Aだって危ないことに巻き込まれたくないはず…
それに俺はこの関係に何か不自由を感じたことはない。
『私は平和な日常が大好き。誰だって怪我はしたくないし、嫌いな奴には会いたくない。でもそのために大好きな日々を手放すのは嫌だよ』
「でも、死んだら元も子もない!」
『何もできない人生を送るくらいなら、生きてる意味ないよ』
「違う、違くて…」
『私は、イゾウさんの生きる意味なんだっけ?』
そうだよ。
言葉にはできなかった。Aは、分かってるのに何で。
『ほら私のためじゃない。イゾウさんのためじゃん』
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作者名:はなやぎ | 作成日時:2023年10月18日 7時