02.あの頃の面影 ページ3
学校が見えてくる
うっすら他の人影も見えてきた
私は士郎のポケットから手をそっと外し
温まった手を、自分のポケットに入れた
ふと自分のポケットに飴があったのを思い出した
「食べる？」
吹「うん、ありがとう」
「練習、頑張ろうね」
吹「Aがいつも見ていてくれるから、頑張れるよ」
「そうなの？」
吹「そうだよ」
「じゃあ見てるよ、士郎の事」
吹「...うん、僕しか見ないで」
「.....それはちょっと難しい」
吹「どうして？」
私がそう言うと、一瞬寂しそうな顔をした
「だって、みんなの記録を取らないと」
吹「...そうだね、Aも頑張れ」
士郎は私の頭を、ポンッと撫でて笑っていた
ー朝練中ー
サッカーをしている士郎は、時々おかしくなる
DFの士郎は爽やかな風のように
FWの士郎はまるで...荒れ狂う嵐のような
吹「もっとオレにボールを回せ！」
次第にパスは士郎を中心に周り、颯爽とゴールが決まった
吹「っしゃ！見たかA！！」
「う、ん...見てたよ」
ゴールを決め、私に駆け寄ってきた士郎
汗をかいていたからタオルを渡す
吹「さんきゅ！」
そう言って士郎はタオルを両手で顔に当て、強引に吹いた
いつもだったら丁寧に、片方手に取って拭くのに
言葉遣いも何だか...
「士郎...？」
吹「ん、どうした？」
「.....っ」
士郎の瞳...こんなに赤かったっけ
今朝見た時は銀色だったのに
「具合悪い？」
私は士郎のおでこに手を当てた
汗をかいていて当たり前だが少し熱い
吹「...A？」
「っ！...士郎」
吹「うん、どうかしたの？」
「...戻ってる」
ｷｰﾝｺｰﾝｶｰﾝｺｰﾝ...
先生「朝練終了ーー！！！」
チャイムと同時に、先生から声がかかる
あと30分で授業が始まる
吹「あ、着替えてくるね」
そう言って士郎は部室に走って行った
あの口調、瞳の色...
それから鋭いボール捌きのFW
どこか亡くなってしまったあの子を連想させる
大好きだった幼馴染
士郎の弟
「.....アツヤ...」
走って行く士郎の後ろ姿に
そこに居ないはずのアツヤの姿を重ねてしまった
どこか懐かしい面影が
こちらを見て、嬉しそうに笑っているように見えた
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作者名：エト | 作成日時：2023年9月14日 2時
