魔性に侵された少年 ページ9
「茶漬けが食べたい」
流離い続けて、はや3日。懇願する少年に差し迫る絶命。飢えという毒が体全体に回りきれば身動き一つ取れなくなるだろう。
生きるための決断が早急に強いられるが、最早、他人から奪い取るという一択しか残されていない。齢18歳の少年のいたいけな良心は悲鳴をあげていた。
飄々と蛇行する大きな川の傍らで立つ気力さえも削がれてうずくまる。
この少年……否、中島敦は、なぜ茶漬けを振る舞われたあと、あの場に留まらなかったのかと自問自答をした。
さすれば当面の間は飢えに苦しむことも無かった筈だ。
のほほんとした雰囲気を身にまとった女性に寄生虫の如くぴったりと引っ付いてしまえば良かった。ため息が溢れて思い嘆く。
ずるずるとした後悔に身を任せると四つん這いという姿勢に自然と変わり、それからがっくしと顎も地についた。
眼前を流れる川の飛沫が顔に飛び散り、尚、思考を堕落させていく。
だがその根本には、その女性という存在自体が敦に強烈なインパクトを与えているのも確かなことである。
彼女を忘れろと言われても一生、叶わぬことであろう。
敦がこう評する女性と出会ったのは街がネオンの光に包まれ夜も充分深まった時分であった。
その日も今日のように飢えに苦しめられ、悪臭を放つごみ捨て場だというのに力尽きて座り込んでしまっていた。
そんな時に突然、「ねえ。少年」と言って座り込んで話しかけてきたのだ。
彼女はパーソナルスペースという概念は何処にいった?と指摘してしまいそうなほどの距離まで間をつめてからにっこりと微笑んだ。
特別整っている容姿というわけでは無いのに、その笑顔に目を奪われる。全体的な派手さは欠けるが、どことなく雰囲気に愛嬌があってその可憐な笑顔が彼女の魅力をはね上げていた。
くりっとした大きな目が惜しみなく細められるものだから敦の警戒心も拍子抜けだ。
しかし、吐き出される彼女の息は妙に酒臭い。
酔っ払いかと見当をつけて敦は面倒事に巻き込まれかねないと考え顔を伏せる。
話す気がないと行動で示せば興が醒めて立ち去るだろうと当たりをつけたのだが……ぐいっと米神をを両手で掴まれ強制的に前を向かされてしまった。
「……ねぇ。……私ね……今日ね、彼氏にふられちゃった」
切なそうにゆらゆらと揺れる瞳と真正面で交わる。
51人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
司(プロフ) - 黒猫さん» コメントありがとうございます!こんなハチャメチャな夢主、需要あるのかな?と不安だったので、そう仰って頂けると嬉しいです!オチはですね……。後々あかしますね。個人的にオチを先にお知らせするというのはどうにもピンとこなくて……個人的な見解で申し訳ないです (2017年7月28日 18時) (レス) id: b086ef1462 (このIDを非表示/違反報告)
黒猫 - うわぁぁぁ文才ありすぎません?設定がしっかりしてて読んでて楽しいです!!渡辺ちゃんの謎?も気になりますし…笑笑。あと気になるのはこの小説って誰落ちなんですか?(太宰さんがいいなぁ…←図々しい汗)更新頑張ってください!!! (2017年7月26日 13時) (レス) id: a8e89100ce (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:司 | 作成日時:2017年7月2日 15時