20.貴方達へ向けたご冥福 ページ26
二人に送ってもらうと辺りはすっかり淡い夜にかわり宵闇が口を開けていた。
味気がない「ただいま」は飲み込んで電気もつけずにソファへ直行する。
一人っきりの部屋は久しぶりだった。
首に手を這わせるとピリッとした痛みが広がる。
ーー影役者。
誰も知らなくとも私だけはわすれまい。
影で支えた一番の功労者とは、ずばり猫である。我が家にすみついたプリティーな猫。
可愛い外見とは相いれずこの猫は信義を重んずる。
飼い主に託された使命をやりとげたのだから大したものだ。
***
事の始まりは、とある婦警が政治家の汚職事件を解明しようとしたことだった。
優秀な刑事である彼女はいち早く舞台裏を割り当てる。しかし端なくも凄惨な真相に直面することとなってしまったから、やるせない。
自分の恋人が間者であるという事実。愛する人が汚職を引き起こした密通者。
どれほどの衝撃だったかは計り知れないが、彼女は勇敢にも真実と向き合うことを選択した。
そして、彼女は万が一の保険として愛猫にこう言ったのだ。
「もしも私に何かあったら、彼に会いに行ってほしいの。お願いね」
猫が言語をきちんと理解しているかなんて関係がない。
しかしながら現実は時に残酷だ。
猫は『もしもの前』に死んだ。交通事故によって儚く命を散らした。
息絶えるその瞬間まで主人を想いながら……
図らずして、この執着が猫をこの世にとどまらせたわけである。
またまた図らずして『猫と婦警と恋人』の関係性を知った私は彼女を探しに毎日足を運んだ。
残念ながら発見した時には屍となっていたが、残された想いを拾うことには成功した。
飼い猫の首輪にくくりつければ、あなたに届くかもしれない、でも……届かなくてもいいかもしれない、という相反する希望。
彼女の万が一の保険は猫の首輪に隠された手紙であったのだ。
***
さて。いまごろ牢獄にいる男は一人、手紙を読んでいる頃合いだろう。
私が苦労して手に入れたのだから生半可な態度はゆるすまじと思うが、その心配はないはずだ。
全文を読み終えたのちに、彼は必ず自分の愚かさを恥じ入る。
「彼女への贖罪は存在しない」と述懐していたが、一生消せない十字架を背負って生き続けることしか道はないと気づくだろう。贖罪のしょの字の足しにもならないが。
ーー女というのは男の顔をたてる。何食わぬ顔をして男の見栄に目をつむってやる。
女は逞しくしたたかなのだ。
「女をなめんじゃねぇよ」
脳内で反芻させた。
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司(プロフ) - 黒猫さん» コメントありがとうございます!こんなハチャメチャな夢主、需要あるのかな?と不安だったので、そう仰って頂けると嬉しいです!オチはですね……。後々あかしますね。個人的にオチを先にお知らせするというのはどうにもピンとこなくて……個人的な見解で申し訳ないです (2017年7月28日 18時) (レス) id: b086ef1462 (このIDを非表示/違反報告)
黒猫 - うわぁぁぁ文才ありすぎません?設定がしっかりしてて読んでて楽しいです!!渡辺ちゃんの謎?も気になりますし…笑笑。あと気になるのはこの小説って誰落ちなんですか?(太宰さんがいいなぁ…←図々しい汗)更新頑張ってください!!! (2017年7月26日 13時) (レス) id: a8e89100ce (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:司 | 作成日時:2017年7月2日 15時