18.演劇のお時間 ページ24
「人生不思議なものですね」
張りつめた空間の中で私の声が凛と響く。
犯人もしかりだが皆に動揺を運んだようだ。
一介の小娘が虚勢を張っているのではないかと思われるのも癪なのでもう一度たたみかける。
「人質という大役に抜擢されるのは、何度目だと思います?」
まるで台本があるかのように澱みなくスラスラと口から飛び出す。
こうも冷静でいられるのは、周りの人間の焦燥の賜物かもしれない。
取り乱した人間(とりわけ敦くん)をみると心がすこし落ち着く。
とはいってもそんなのただのハッタリだ。
本当は怖い。気を抜けば絶対に震える。でも強がりだけが唯一の武器。首をかすめる刃物にもまけじと優美にほほ笑む。
「かれこれ片手、いや両手では足りなくなるほどの回数かもしれないんですよ」
「……そうやって僕の気でもひこうという目論見ですか?」
「あら。気を悪くさせたならごめんなさい」
両手を肩まであげ降参のポーズをとる。
「やはり巻き込まれ体質っていうのも考えものででして。だから、私はその時その時を生き抜きたいんですよね。後悔しないように。もしも貴方が私を殺すというならば、それ相応の覚悟は持つ所存です。」
しゃべるたびに首の皮膚が熱を帯びる。生暖かい体液が滴るが何食わぬ顔を続ける。
「私は、私の覚悟に見合った対価がほしい」
「……自分がどんなことをほざいてるかわかってるのかよ!!お前は人質だってことを忘れるな。僕がその気になれば蹂躙は容易いんだ!」
ぐりっと押し付けられたナイフが形容しがたいほど痛い。だが、彼の感情が表ざたになった。
その綻びに付け入る。
「私の願いは、貴方の口から真相を知ること。お話いただけます?」
ついでに隙を見て型をつけようとする魂胆が丸見えな方々にも笑みで釘をさしておく。
彼はポツリ、ポツリと語りだした。
一言、一言を慎重に選びながらゆっくりと心中を吐露させていく。
次第に嗚咽をふくみだすが、それでも彼は話を続けた。
「彼女へ贖罪は存在しない」の一言で彼の物語は唐突に終わった。
そうして男は力なくへたり込み、無気力にナイフを投げ捨てた。警官たちがあっという間に私と巡査を取り囲んだ。だが、私は片手をあげ彼らに静止の合図を送る。
視線を合わせるために座って「はい」と言いながら彼へ小さく折りたたまれた紙切れを渡す。
私は無理やり彼に紙を握らせ拳をそっと上から両手で包み込んだ。
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司(プロフ) - 黒猫さん» コメントありがとうございます!こんなハチャメチャな夢主、需要あるのかな?と不安だったので、そう仰って頂けると嬉しいです!オチはですね……。後々あかしますね。個人的にオチを先にお知らせするというのはどうにもピンとこなくて……個人的な見解で申し訳ないです (2017年7月28日 18時) (レス) id: b086ef1462 (このIDを非表示/違反報告)
黒猫 - うわぁぁぁ文才ありすぎません?設定がしっかりしてて読んでて楽しいです!!渡辺ちゃんの謎?も気になりますし…笑笑。あと気になるのはこの小説って誰落ちなんですか?(太宰さんがいいなぁ…←図々しい汗)更新頑張ってください!!! (2017年7月26日 13時) (レス) id: a8e89100ce (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:司 | 作成日時:2017年7月2日 15時