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愛惜に囚われた男 ページ21

うねり狂った長蛇に踏み込む。
空の青さで蓋をした液体は太宰の片足を飲み込み、もう片足を飲み込み、腰さえ飲み込み、胸までをも飲み込む。
地は太宰の両足を手放し、浮力に体を委ねさせ、せめてもの情けで顔だけを濁流する川から救い出す。
「生きている」
ポツリと漏らした言葉に価値はない。目をつむり水面下にゆっくり身を沈める。
一呼吸分だけ水の中で吐きだせば上昇するあわぶく。

時々、太宰治はこうして一人で川の上流へ赴き、川に体を投げうる。
水は太宰を受け入れない。太宰も川を受け入れない。
だが、いつでもその気になれば命など捨てられる。
そう思うことでしか保てない何かが太宰の心底に巣食っていた。

もう一度、水中に沈みこめばうごめく雑念。
真っ先に思い浮かんだのは最近知り合ったばかりの女の顔であった。
何処にでもいそうな平凡な女。それでいて纏っている雰囲気が珍妙なのである。
それが何か知りたくて、太宰は毎朝のように彼女に会いに通った。

彼女は本当に不思議だ。
頭の回転はなかなか早く聡明さを持ち合わせている。
加えて表情は豊かで当然のごとく笑顔を振り撒く親しみ易さもある。
だと言うのに一定の距離は決して踏み込んでこないという行間を読み取る力もあった。
その全てが彼女に惹かれる容認の一つであることは太宰も重々承知していた。

つまるところ、太宰は彼女と会話をするのが心地いいのだ。
しかし同時に恐怖心もあった。
いつか……
どろどろの汚い感情を洗いざらい吐き出してしまう日が来るのではないか。
自身でも整理ができていない言葉が溢れて止まらないのではないか。


川の流れは随分と穏やかになっているのに深海で溺れてしまいそうだ。
そろそろ陸に上がるべきだろうと考えると、咆哮のごとくやってきた巨大な力に両足を捕らえられてしまった。
太宰は軍警の捜索による網に引っ掛かったことも理解するすべなく、いつのまにか上下反転、尚且つ宙ぶらりん状態に陥ってしまっていたのだ。
網にかかった魚のように空中に吊り上げられた太宰。なんとも間抜けな姿だが、太宰の眼前には見知った顔が3つもあったことにより笑みがこぼれた。

「やぁ、敦くんに乱歩さんに……それとAくん。これは奇遇だね」

飄々といってのけた太宰だが、先刻までAのことを考えていたものだから実は驚愕していたということは、太宰以外の誰も知り得ないことだ。

16.事件のお時間→←邂逅



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作品ジャンル:アニメ
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(プロフ) - 黒猫さん» コメントありがとうございます!こんなハチャメチャな夢主、需要あるのかな?と不安だったので、そう仰って頂けると嬉しいです!オチはですね……。後々あかしますね。個人的にオチを先にお知らせするというのはどうにもピンとこなくて……個人的な見解で申し訳ないです (2017年7月28日 18時) (レス) id: b086ef1462 (このIDを非表示/違反報告)
黒猫 - うわぁぁぁ文才ありすぎません?設定がしっかりしてて読んでて楽しいです!!渡辺ちゃんの謎?も気になりますし…笑笑。あと気になるのはこの小説って誰落ちなんですか?(太宰さんがいいなぁ…←図々しい汗)更新頑張ってください!!! (2017年7月26日 13時) (レス) id: a8e89100ce (このIDを非表示/違反報告)

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作者名: | 作成日時:2017年7月2日 15時

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