14.お気楽者のブラームス ページ18
「あの……それでですね。太宰さん?」
「ん、なんだね?」
デジャブ。何回繰り返すこのやりとり……。
おちょぼ口をしてはぐらかす彼と向き合う。
「今日はどういったご用件で?太宰さん」
「そんな冷たい言い草はないじゃないか。Aくん。私たちの仲であろう」
「いや〜、参りましたね。いつぞやに私と太宰さんはそんなに親密な仲になったんでしょうねぇ」
初出勤のあの日から1週間と3日。
毎日、毎度、朝っぱらから無駄に顔がいい彼と私は対峙している。
この関係性をどう説明すればいいかはわからないが、いわゆる知人だけれども友人とは言い難いおしゃべり仲間っといったところだ。
太宰さんが言ったように『住めば都』は現実になり、総務総科はなかなかよい物件であった。
無人だった社内にも理由があって、通勤だけでも危険にさいなまれるという要因で、許された特典がたんまりあったからである。
なんともありがたい特典その1は定時というものが存在しないことだ。
出勤日に会社に来さえすればOK。労働時間の規制なし。1時間ほど会社にいて暇をつぶせば、即ち、仕事終了。
一番リスクが低い昼間に会社に通勤するのがセオリーなようで、そのために八時なんていう時間には誰も姿をみせなかったのである。
ただし、私の場合は例外。最初の目的を忘れるべからず。我が家の可愛い猫ちゃん。その癒し効果を最大に発揮するために心を鬼にして会社にやってきているのだ。
そのためには緩みは禁物。
きちんと定時に会社に出向いて仕事に取り組んでいる私の健気さに太宰さんも見習ってほしいものだ。
毎朝のようにやってきて一時間程度、油を売って帰っていく。最初こそ見てくれの良い彼に心を弾ましていたが……今となっては複雑な心境だ。
「それでね。お〜い。Aくんよ。私の話を聞き給え」
「はいはい。言われなくても聞いてますよ」
家から持ち込んだパソコンのキーボードを鳴らしながら耳を傾ける。
「ああ、私はAくんが暇だと思って足を運んであげているのに、なんという薄情な態度!私はやり切れない悲しみに覆われて、ぐうの音もでないよ」
顔に手を置き、くさい泣き真似なんてされてしまえば、うっとおしいったらありゃしない。
降参ポーズで太宰さんに話の続きを促す。
「で、本日のお話は?」
「新入社員の敦君の話だよ」
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司(プロフ) - 黒猫さん» コメントありがとうございます!こんなハチャメチャな夢主、需要あるのかな?と不安だったので、そう仰って頂けると嬉しいです!オチはですね……。後々あかしますね。個人的にオチを先にお知らせするというのはどうにもピンとこなくて……個人的な見解で申し訳ないです (2017年7月28日 18時) (レス) id: b086ef1462 (このIDを非表示/違反報告)
黒猫 - うわぁぁぁ文才ありすぎません?設定がしっかりしてて読んでて楽しいです!!渡辺ちゃんの謎?も気になりますし…笑笑。あと気になるのはこの小説って誰落ちなんですか?(太宰さんがいいなぁ…←図々しい汗)更新頑張ってください!!! (2017年7月26日 13時) (レス) id: a8e89100ce (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:司 | 作成日時:2017年7月2日 15時