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09.朔月の決戦日 ページ13

実際のところ、私は退職願を出そうと考えあぐねていた。
同僚からの哀れみの視線、同情めいた言葉も理由の一つとして上げられるが、なによりも生命存続すら侵される職場にみすみす行くことが考えられなかった。
けれども、家に帰ると簡単に改めたのだから自分に嫌気がさす。

玄関を開けたら愛しの三毛猫ちゃんが私めがけて飛びついてきまして。それは心の底から帰りを待ちわびていたといわんばかりだった。私はこの可愛さに胸を射止められたのだ。
さながら、この現象は山登りの後の絶景、勤務後のビールのようではないか。頑張れば頑張る分だけごほうびが煌めく。
毎日きちんと仕事に打ち込めば、全身で表現してくれる「おかえりなさい」を堪能することが出来るのでは?そんな不埒な考えが頭を横切り、素直に出向することを決めた。


***
こうして時は初出勤の日。
タンスの奥にしまい込んであったスーツをビシッと着こなす。
天候は澱んでいて鼓舞してくれる類のものではない。暗雲が立ち込め今にも雨粒を落としそうだ。そして、何よりまとわりつく生暖かい大気が私の足をすくめさせる。

腹を括って一歩踏み出せば、今まで一線を置いてきた領域。
生まれてこの方、治安が悪いと示唆されてきた所には1度も立ち入ったことはなかった。総務創科はなぜ危難的な場所にあるのか。分かりきった回答が胸を燻りつつも行く道を急ぐ。

おい、我がスマホの地図よ。
私はキミを頼りにここまでせっせと足を動かしてきた。
だが、どう見ても前方は行き止まり。
袋小路の路地裏。鬱蒼とした雰囲気に身の毛がよだつ。所々に施してあるペイントも薄気味悪さを肥大させる要因と化している。
慌てて踵をかえし、さっき曲がった角まで戻って反対方向に曲がった。

だが、またもや袋小路。
しかも尚のこと最悪な。視界に飛び込んできたのは真っ黒なスーツを身にまとった男達である。
奥部にて2人の男がスーツケースを片手に持ち対話に勤しみ、その後ろには10人ばかりの男たちが取り囲む。素人目であってもただならぬ雰囲気を汲み取れよう。

幸いなことに男達は誰一人として私に気づいてない。
利幅が大きくなるように模索しあっていることによって命拾いした。抜き足差し足で来た道を戻ろう。
……だが、どんな運命のめぐり合わせだろうか……足元には錆びきった空き缶。

時すでに遅し。間抜けな音が響き渡った。

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作品ジャンル:アニメ
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(プロフ) - 黒猫さん» コメントありがとうございます!こんなハチャメチャな夢主、需要あるのかな?と不安だったので、そう仰って頂けると嬉しいです!オチはですね……。後々あかしますね。個人的にオチを先にお知らせするというのはどうにもピンとこなくて……個人的な見解で申し訳ないです (2017年7月28日 18時) (レス) id: b086ef1462 (このIDを非表示/違反報告)
黒猫 - うわぁぁぁ文才ありすぎません?設定がしっかりしてて読んでて楽しいです!!渡辺ちゃんの謎?も気になりますし…笑笑。あと気になるのはこの小説って誰落ちなんですか?(太宰さんがいいなぁ…←図々しい汗)更新頑張ってください!!! (2017年7月26日 13時) (レス) id: a8e89100ce (このIDを非表示/違反報告)

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作者名: | 作成日時:2017年7月2日 15時

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