7.大和名 ページ10
手短に格好を整えた折、目指すは銭湯ということで道中を闊歩する。
足首までかかる裾の所為で歩きづらい。
大股、ガニ股、とは無縁の大和撫子を目指そう。ローファーというミスマッチングな足元から目を背け、距離が離れてしまった助六を視界にいれる。
着慣れない浴衣で逞しい背中を目掛け、一目散に走り出した。
よし！追いついた、そう気が抜けるとあろう事か歩幅が裾の開くラインを超えてしまった。
体が硬直し自己防衛の如く腕が前方に伸びる。
「……っ！」
これから地面と接吻を交わすのかと半ば諦めの心持ちで潔く目を瞑った。
耐え難い衝撃と共にふわりと鼻腔にお香の匂いが届くと、膝下の力が抜ける。
勢い任せに顔面がずり落ち毛羽立った麻のような感触によって頬に摩擦が発生する。
擦れた頬は熱を帯びてじんじんと痛む。
地面の代わりと言ってはなんだが、どうやら角ばった助六の背中ににダイブしてしまっていた。
「っと…おっとと。でぇじょうぶか？」
全体重が助六にかかったはずなのにびくともしない背中はやけに頼もしい。よろめきながらも慌てて体勢を起こす。
「すみませんっ」
「いやいや、俺が早く歩き過ぎちまったな。悪りぃ」
頭をボリボリと掻きむしって、こうべを垂れた助六。
そんな事ない、有り難うございますの意を込めて笑いかけると彼も薄っすらと笑みを浮かべた。
「んまぁ、そこが銭湯な」
男らしい筋が浮かぶ腕で、「菊の湯」と書かれたこじんまりした建物を指差す。
「俺ぁちいっと用事あるもんだから、また後で来るからそこで待ってろな」
私の手に100円玉と50円玉を握らすと満足そうに1度頷いてから再度きた道を引き返していく。
少しばかり見送りをしてから銭湯に入ろうと見つめると助六がくるりと振り返った。
彼は離れたところでもごもごと何か呟くが聞き取れない。
聞こえないとジェスチャーを送ると、彼は顔の前に右手を添えて頭を軽く揺らし｢すまん｣といったポーズをとった。お茶目な笑みを浮かべるとそのまま右手を口に添える。
「なぁーー俺ぁ助六っつうんだ。
おめぇさんの名前はなんていうんだい？
そういや、聞いてなかって気づいたーー」
周りになんか気にも留めず私に大声を届ける。
鈍器で殴られたような戦慄が駆け巡った。
貴方の名前なんかとっくに知ってるという回答が胸を燻る。
ぎゅっと拳を握り締め、喉に鞭打つ。
「私の名はA。佐々木Aっていうんです」
これまでの喉の不調が嘘みたい馬鹿でかい声がでる。
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司(プロフ) - かさむらさん» ありがとうございます！ゆっくりな更新になるかとは思いますが、また覗きに来てください😊 (2022年3月10日 20時) (
レス) @page12 id: a9e06ac14f (このIDを非表示/違反報告)
かさむら(プロフ) - 好きです😭 (2022年2月21日 1時) (レス) id: 4aae2010b1 (このIDを非表示/違反報告)
司(プロフ) - 返信遅くなってしまい申し訳無いです。三年ぶりの更新ですのでこのページにいらっしゃる事はないかと思いますが、完結させるまで描きたいと思います。コメントありがとうござました！！ (2020年4月30日 20時) (レス) id: 619e207b44 (このIDを非表示/違反報告)
はな - 好きです (2018年10月4日 12時) (レス) id: 45985fda0f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：司 | 作成日時：2017年6月12日 12時
