8.古傷 ページ11
湯船に肩まで浸かってホッと一息つく。
他にお客さんがいたらどうしようかと思っていたが、私ひとりの貸切状態だった。
勢いよく湯から立ち上がると湯が音を立て水の波紋が広がる。足で湯を遊ばせながら遠目に見える鏡を振り返ってみた。
遠い姿見ではわからないが、私の肩から背中にかけて大きな古傷がある。
触れても肌の感触しかないのだが、まるで刀傷のように一本の線が私の体を覆っているのだ。
自分にはお馴染みの傷だが、人によっては侮蔑の対象になったり、必要以上に同情されてしまう。
厄介な古傷であった。
きっと浴衣に着替えさせてくれた人には見られてしまっただろう。
菊比古と助六が二つ目である、なおかつ、同居中。しかも助六が別嬪さんと表現したということは、きっとみよ吉であろう。
胃がきゅっと縮み上がる。
私はどうすればいいのだろうか。
いま私が持っているものは知識のみ。いつまでも菊比古に縋り付くことは出来ない。
生活を立てるには住み込みで雇ってくれる所を探すしかないだろう。
こんな身元も不確かな小娘を雇ってくれるところはあるのだろうか。
不安の塊に押しつぶされそうだ。
しかしながら今後の行末を決めるために私は自分の設定を定義しなければならない。
まずこの時代はきっと昭和20年から30年の間であろう。
ということは第二次世界大戦の終結が昭和20年。
親はその時に亡くなり、そして天涯孤独の人生を歩み、生きるためにどの様な事もやってのけた。
だが、そのあまりにも辛い出来事が精神を蝕み、記憶喪失に陥ってしまった。
この設定だったら私の古傷もうまく作用するのではないだろうか。空襲の時にでも言っとけば、憐憫の情で雇ってくれるところもあるかもしれない。
我ながら最低だなと自嘲してしまうが、私は生き抜く。
心の柔らかい所には蓋をして、なんでも利用して、不幸の連鎖を断ち切る。
もう一度肩まで湯船につかった。
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司(プロフ) - かさむらさん» ありがとうございます！ゆっくりな更新になるかとは思いますが、また覗きに来てください😊 (2022年3月10日 20時) (
レス) @page12 id: a9e06ac14f (このIDを非表示/違反報告)
かさむら(プロフ) - 好きです😭 (2022年2月21日 1時) (レス) id: 4aae2010b1 (このIDを非表示/違反報告)
司(プロフ) - 返信遅くなってしまい申し訳無いです。三年ぶりの更新ですのでこのページにいらっしゃる事はないかと思いますが、完結させるまで描きたいと思います。コメントありがとうござました！！ (2020年4月30日 20時) (レス) id: 619e207b44 (このIDを非表示/違反報告)
はな - 好きです (2018年10月4日 12時) (レス) id: 45985fda0f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：司 | 作成日時：2017年6月12日 12時
