夜桜しか見られない (ページ3)

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第二話ページ3

久しぶりに入店するギルドは、何も変わっていなかった。

入った瞬間、マスターの細い目が私を捉えた。

先程までガヤガヤしていた店内が、宇宙空間に放り出されたかのように静まる。

｢あー…久しぶり｣

突然の事に居心地が悪くなった私は、咄嗟に言葉を繕う。

その一言で糸がぶつりと切れたかのように、店内に居合わせた全員が自分のところに押し寄せた。

｢うぉお｣

自身のみっともない声も、押し寄せた退治人仲間達の声に掻き消される。

｢お前ずっとどこ行ってたんだよ！？｣

一番に大きな声を上げたのは、マリアだった。
私の肩を持って、激しく揺さぶりながら問い掛ける。
あぁあぁあぁ、と、自分の声も振動する。

他のみんなも、同じ問いを少し違ったニュアンスで問い掛けてきた。
返事をしようにも、マリアの揺さぶりと全員の同時質問に阻まれる。

この人たち、本当に私の返答を聞く気があるのだろうか。
そう疑う程だった。

2ヶ月程他県に出張退治に出ていただけなのだが、特に何の報告も無く出張してしまった為心配を掛けていたようだ。

一度退治を始めたらあまりスマホを見ないので、全ての依頼が一段落してからメールを見たら通知が3000件以上溜まっていたのは驚いた。

今までも依頼となると連絡を絶ってしまう事が多かったので、マリアやショット達によく注意されていたが、これ程まで長期で連絡しない事は今まで無かった。

皆からしたら異例の事態だったようだ。

｢お前スマホ見ないのマジで悪い癖だぞ！？｣

マリアの揺さぶりが止まったかと思うと、ロナルドに額を小突かれ、凄い剣幕で言われた。

｢いやぁ、ごめんごめん｣

私は、馬鹿ゴリラ力でとんでもない圧がかかるロナルドの人差し指から逃れ、ヘラヘラと受け流す。

｢ごめんごめんってお前なぁ…｣

そんな押し問答を繰り返していると、ギルドの店前から弱々しい悲鳴が聞こえた。

寄り集まっていた退治人達がギリギリ気付くような、小さな声だ。

私は一番に店を飛び出し、外の様子を伺った。
飛び出したのが一番早かったのは、あの場から逃げたかった気持ちも少なからずある。

見回すと、私の向かって右側の路上に、半身が塵と化したおじ様とアルマジロが居た。

｢何故？｣な組み合わせだが、自身の体はその疑問よりも先に動いていた。

ここ数年吸血鬼退治に没頭していた為、最早脊髄反射の域である。

私は、そのおじ様アルマジロペアと退治対象の間に素早く入り、銃口を対象に向けて引き金を引いた。