わたしの声を聞いて【斑鳩三角】 (ページ7)

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「いってきます」

玄関で一度お辞儀をした三角は、踵を返して飛び出していった。
空が青一色の晴天の中で、猛スピードで駆ける。
連なる建物が後ろ、また後ろへと景色が移っていった。

三角は軽いステップで楽々塀を登り、向かいの道へと降りる。
本来ならもう少し先で道が合流するが、そこを通ると大幅に無駄な時間を食ってしまうので、ショートカットするならここからが一番近い。
商店街を抜け、大通りを渡るとそこは見慣れた天鵞絨駅と書かれた看板がある駅だ。
建物の前には広場があり、木をくるりと囲むベンチに人が座っている。

「ゆずだ」

声を弾ませて、ポロッと口にした言葉を封じるように慌てて口を塞ぐ。
三角は慌ててあたりを見渡すが、人が多くなく周りに人がいないので三角が零した言葉を聞いた人はいないだろう。
そもそも人がポロッとこぼした言葉を、真剣に聞こうとする人もいないと思うけれど。

三角はゆずと呟いた女の子に目を移した。
三角の着ているオーバーオールとよく似たデニムを着て、フリフリのレースがついているトップスを着ている。
ツインテールがよく似合う幼さを持っている女の子だった。

三角の踏み出す足が一歩、一歩と増えるたびに速くなる。

「きの〜！！」
「ぅうわ！」

飛びつくように抱きしめると、きのは小さく驚きの声を上げる。
まるで犬がじゃれているような三角の反応に、きのが腫れ物を扱うようにそっと撫でると、三角に破顔した。

「きの、お待たせ」
「そんなに待ってないよ。髪がボサボサ。走ってきたの？」
「ん〜ちょっとね」

全力疾走しながら、塀の一つを越えてきたというのに軽く三角は受け流す。
きのは髪をなでながら、三角の髪を整えるとバンダナの位置をきれいに戻した。

「ありがと」
「いえいえ」

三角は少し離れて、きのが座ってる横に腰を下ろす。
じっときのの様子を見る三角は、さっきまでのハイテンションが鳴りを潜めていて、大人っぽい。
きのの髪につけられたリボンのクリップから、首についたシンプルだけど可愛らしい羽のネックレク、おそろいとも言える服装を見たあと、三角は視線を合わせる。
急に視線が合うもんだから、きのは若干視線をそらした。

「きのは今日も可愛いね。素敵だよ〜」
「え、あ、ありがと」

三角は顔まで逸らしてしまったきのを見て、更に笑顔が深くなった。