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「すみーところでどこに行くの?」
「あー!!」
だんだんと大きくなる三角の声に、至近距離にいた幸は肩がビクリと震えた。
三角は腕をまくって時間を確認する。
三角の腕に付いているものを見て、驚きをみな感じつつも三角の慌てようにかき消される。
「今から女の子に会いに行くの!もう行くね」
稽古中に天馬に言っていた言葉をそっくりそのまま言った三角は、天馬と一成の間をすり抜けていく。
「それってデートじゃ?!」
「そーだよ〜!」
驚愕とした一成の声は、吹き抜けをまたいでまだ三角に届いたようだ。
肯定の返事が返ってきたあと、三角はもう階段を下りており姿が見えなくなってしまった。
「やっぱデートじゃん!収穫得たり〜!」
「よーし、お殿様に知らせに行こー!」
「そんなに慌てるでない。まだ敵陣の中だぞ。まだ油断してはいけない」
一成と九門と椋は一瞬にして忍者エチュードに戻り、忍び歩きを再開させていた。
天馬は頭に手を当てて、「仕方ないな」とそれに付き添う。
幸はというと、三角が下りていった階段を見つめた。
三角が降りていく瞬間の記憶がプレイバックされたものが、誰もいない階段に重なる。
階段に足をかけた一瞬、三角は幸たちに笑顔を向けた。
あどけなさが残る子供の笑みだった。
けれど、階段を踏みしめた瞬間には、もう顔は下を向いていて、そこから笑顔は抜け落ち口元だけが弧を描く。
⸺やっぱり大人っぽい。
幸は違和感に正しく名前をつける。
違和感なんて不透明な言葉ではなく、しっかりと正体を暴いてやる。
普段の三角らしくない服装、表情、浮かれ方。
全てに大人びたものを感じて、全てが幸より何年も多くのことを経験してきた人のそれだと言う事に気が付いた。
いつも大人っぽい人のそれを見るのと、子供っぽさが残る大人のそれを見るのではやはり衝撃が違う。
見てはいけないものを見てしまったという罪悪感に似た感覚が、幸の心に残った。
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作者名:春秋るる | 作成日時:2023年9月15日 20時