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発案は誰だっただろうか。
おそらく自然とそうなったとかだろう。
幸はこれまでの経験則になぞらえて考える。
稽古場の片付けやミーティングを放り出してきたのは、三角と九門の部屋の前。
前回の夏組公演で習得した忍び足を使いながら、部屋の前まで来た。
壁に1列に沿って並んでいる。
わざわざ忍者になりきって部屋の前まで来たのは、
「なんで忍者?」
「その方が楽しいっしょ」
お得意の夏組のノリだ。
部屋の二人目の主である九門が、ドアに耳を当てる。
他のメンバーはその九門の周りを興味津々に近づき見守る。
「どう?」
「なんかー、バタバタしてる?」
「疑問形かよ」
「静かだけど、騒がしいかも!」
「どっちだよ!」
「天馬くん静かに」
忍び足でわざわざここまで来たっていうのに、騒いでしまっては意味がないのではないかと幸は思うが、指摘はせずに放っておいた。
そっと、ドアに耳をつけて中の音に耳を澄ます。
ガタリと何かが落ちる音がしたあとに、足音がどんどん大きくなる。
幸は物音を立てないように、そうっとドアの前から離れた。
4人は幸がドアの前から離れたことに気づいていないようで、口論を続けている。
「あれー?みんなどうしたの」
「…すみーさん。あ、えっーとね」
三角がドアから出てきたところで、みんなを見つめて首を傾げた。
幸は足を下げて後ろへ下がろうと思っていたのも忘れ、三角の方を見て目を見開いた。
訥弁がばかりでて、一向に言いたいことがつっかえている九門は頭を捻っていた。
三角は九門が言いかけた言葉で、今度は反対側に首を傾ける。
「えーっとなんかさ、なんと言うか」
「んー?なあにー」
九門が頭を捻らせているのを、律儀に三角は待ってくてるようだった。
さっきまで、時間に追われているように廊下を走っていたというのに大丈夫なのか、と幸は思う。
「あ、わかった!さんかくじゃないんだ」
解決したと言わんばかりに、大声で叫ぶ九門。
隣りに居た椋は、九門の声に「確かに」と同意をする。
三角が部屋のドアから出た瞬間、幸の目に飛び込んできたのはいつもと違う三角だった。
さんかくがない。
九門はそういう表現をしていたが、根本的に彼が好む布もスタイルも、もちろんさんかくも身につけていない。
普段執着しているものを捨てて、全く別も皮を纏ってしまったようにも見える。
幸が見る限り、目に見えるさんかくは胸元のペンダントのみだった。
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作者名:春秋るる | 作成日時:2023年9月15日 20時