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ぽつりと、鬼舞辻さんは話し出した。
年号が大正だったころ。
桜並木で、男の鬼と病に侵された女性が出逢ったと。
鬼になることで、永遠の時を過ごすことと引き換えに病に打ち勝つことが出来る。
なんて浮世離れした話だろうか。
それでも、彼女は鬼の手をとり、忠誠を示した。
血を分け与えられると、彼女はみるみるうちに美しさを取り戻しどんな鬼よりもはやく、人ならざるものへと変貌していく。
──人だった頃の人格を、優しさを捨てきれないまま。
子どものような無垢な残虐性をもちながらも、大人のような冷静さをもったちぐはぐな鬼の完成だった。
この女を、彼は酷く気に入って、人形を可愛がるかのように服を贈り、花を贈り、時には血を分け与えて。
けれど、この話には最初から、バットエントへと進むレールしか敷かれていなかった。
人の心を消しきれずに不安定な状態になった彼女は。
綺麗に並べたドミノを倒してしまった時のように、僅かなきっかけひとつで崩れ落ちていった。
永久不変を好む、あのひとのことだけを考えて。
何も言わないで、散った。
「琴枝。お前は─────それで幸せだったのか。」
答えは、帰ってくることは無かった。
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作者名:白桃。 | 作成日時:2020年1月31日 22時