貴方の名前で私を呼ばないで (ページ3)

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「何を……」
「死にかけてる彼の耳元に、「ファリンと一緒に生きる道を選ばないか」って。本当に、文字通り悪魔の囁きだよね」
「まさかっ」
「そ。彼も今では魔王ライオスの忠臣」
「ふざけるな！！」
「馬鹿だよね。シュローも、私も」

がっ、チルチャックが私のドレスの襟元に掴みかかろうとして、バランスを崩した。「ご飯をちゃんと食べないからだよ」。転びそうなところを私に幇助されて、苦虫を噛み潰したように苦々しい顔をする彼のおでこに、優しくキスを落とす。一瞬驚いた彼だったが、直ぐにその意味合いに気が付いたのか、目を見開いてわなわなと震え始めた。

「ふざけるなっ、なんで、こんな」
「他に方法はないもの」
「お前がそう思いたいだけだ！」
「じゃあこうする以外で貴方とずっと一緒に過ごす方法があるの？」
「これがお前にとっての幸せだってのか……？」
「さあね。でも、少なくとも不幸では無いから、いいの」

だから、ごめんね。

「この前……姿をハーフフットに変えて、この前貴方の奥さんと娘さん達に生命保険代だって伝えて、ある程度まとまったお金を渡してきた。可哀想だけれど、死ぬまでお金には困らないはず」
「っ……！」
「組合の新しいリーダーも立てた。今はまだ手探りだけど、そのうち彼らだけで上手くやっていけそうだよ」
「おっ、えっ、なんっ……」
「ライオスにも諸々の報告はしているし、悪い方向にはむかわないはず……」

突然私に捲し立てられて、彼はショックで舌が回らないのかはくはくと口を動かしていた。何から言えばいいのか、そもそも何を言えばいいのか、混乱しているらしい。たまらなくなって、その体をそっと抱きしめた。もはや弱々しい抵抗すらされない。

「ねえチルチャック、ハシゴは全部外したわ。ずっと正気で居るのは辛いでしょう？早くあなたも堕りて来てよ」

宙をさまよっていた彼の腕が、ダラりと力無く下ろされる音がした。

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A

クレイジーサイコ系ヤンデレ女。元々はまあまともなモラリストだったのにすっかり迷宮に狂わされた。チルチャックのことは「まあ好きっちゃ好きだけどだけど既婚者だしあんまり仲良くするのもね」と軽く言い続けてきたが、内心をマルシルと悪魔に見抜かれていた。

チルチャック

全ての犠牲者。この話から数週間後に狂って酒！煙草！破壊！の破滅街道を突き進むことになる。(心はずっと泣いている)
家族に会いたい。