貴方の名前で私を呼ばないで (ページ1)

今日:19 hit、昨日:14 hit、合計:772 hit

What I Cill kill 【チルチャック】ページ1

ライオスが魔王になった。悪魔と契約し、趣味の悪い角とローブを身に付け、悪魔の力を自在に振りかざす彼はもはや別人のように人相が違う。彼だけじゃない。マルシルも、同じように心を食われたように豹変した。趣味の悪い真っ黒いドレスを身に付け、仄暗いあの鍵穴型の瞳孔で私の顔をじっと見つめるのだ。

「チルチャック、ご飯」
「……」
「そろそろ食べないと、不死とはいえ体が動かなくなるよ」

きっと、彼らから見れば私もあの二人と一緒なんだろう。体毛や爪がそのまま伸びきってみすぼらしい姿をしたチルチャックの横に座り、そっと口元に今しがた持ってきたシチューを運んでやる。反応は無い。最初期の頃は感情のままにスプーンや皿をひっくり返されたりしたが、この頃はずっとこうだ。話しかけても揺すっても反応しない。そのせいで元々華奢だった体は更に木の枝のように痩せ細り、もはや骨と皮しか残っていない状態だ。

私たちがこの迷宮に取り残されてもはや3年が経つ。彼はマルシルの呪いが無ければとっくに餓死していただろう。よくもまあこんなに己の欲望に耐えられるものだ……いや、もはや生きる気が無いからそれさえどうでもいいということなのか。

「……そろそろマルシルが第二層の構成を終えてこちらに戻ってくる。こんな君の姿を見たらまた酷い癇癪を起こすよ」
「……」
「チル」
「……」
「…食べないなら、無理に魔法で食べさせるだけ。そんなことしたくないの。自分の意思で、食べて」

彼は体育座りで膝に頭を埋めたまま、顔を上げようとしない。息はある。魔法で最低限ものを食べる程度には動けるはずだし、消化器官だって急激な栄養にも対応してちゃんと動くだろう。……その反動、いつまでも生理的欲求が消えず、今だって強烈な飢餓感と食欲に襲われ続けているはずだ。

それでも、相変わらずチルチャックはピクリとも動かない。今日も何も口にしようとしないようなら、無理に魔法を使ってでも何か食べさせてくれとライオスには言い付けられている。でも、魔法は極力使いたくない。……。

「チルチャック、お願い」
「……」
「どうしても食べないなら、奥の手を使うよ」
「……」
「いいの？」

答えはない。少しだけ、最後に悩んだ後、もう仕方ないと諦めて最後の奥の手を出すことにした。