【忍たま】柑橘狂はトリップしても無敵Part７

283話:見慣れた天井 ページ1

この天井を見慣れているなんて言ったら聞こえは悪いけど、私は両親の職場に来た際、よく見上げていた景色だった。

全身が痛む中で目だけを動かし、辺りを見回す。


あれは夢だったのだろうか。

現実に戻った途端、今まで見てきた数十日間のことが信じられなくなる。

とりあえず枕元にある緑のボタンを押そうと左手を動かすと、その中に握っている物の違和感に気づいた。


「…………っ、ふっぅ、あﾞあああぁぁぁあああ……」

綺麗に三つ折りして結ばれたそれは間違いなくあのちりめん紐で、その瞬間、溢れ出した涙が止まらなくなる。


《はい？どうされました？》


押したナースコールから聞こえてくる声に嗚咽混じりに『起きました』と言うと、向こうが慌てて医者を呼ぶ声がした。






「Aっ！」

最初に飛び込んできたのはお父さんだった。

それからお兄ちゃん、お母さんと自分の仕事を放って駆けつけてくる。

あと今日は休みで丁度私への買い物に行っていた上のお姉ちゃんも、電話を受けてすぐ帰ってきた。

みんな同じ総合病院で働く医者。

下のお姉ちゃんが学校を卒業してここに就いたら私だけ動物病院で離ればなれになるんだろうけど、そんな事より私は進級出来ない事にショックを受けていた。

「………………ぇ、退院、いつって？」

「その身体が完治するまでだから、5ヶ月後くらいだな」

冷静に麻酔を打つお父さんに、我が耳を疑う。

全身が痛いと訴えたら麻酔を打ってくれたのだが、私は確実に麻酔ではないめまいがした。

「大丈夫よ、また2年生から始めるだけじゃない」

さっきまで号泣していたお母さんをキッと睨む。

その2年生からってのが面倒くさいんだと文句を言おうとしたが、麻酔が効いてきたのか、喋るのも億劫になってしまい、結局口を噤んでしまった。







あれから精密検査など面倒なものを沢山受け、目覚めて5日目の夜。

私の身体は不思議な事に、あちらで受けた傷とリンクしているようなのだ。


孫兵くんに刺された左腕は複雑骨折。

お粥が掛かった右腕と足の火傷は身が擦れてちょっとえぐれたらしい。

白秋に噛まれた右手もいくつか骨折している。

そして作兵衛くんに桶をぶつけられた頭は線状骨折だ。

他にも擦り傷などが沢山あるが、目立った外傷はこのくらいだった。


はああぁ…と大きなため息をついて手に持ったちりめん紐を見る。

……起きれるようになったらすぐ髪切ろ。

少し傷んだ髪の毛を軽くいじり、そう心に決めた。

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