[腐滅の刃]継国兄弟の短編集。

更に更に続き ページ18

満月が雲に隠れた深夜。もう任務を終えた巌勝は布団を敷き寝ようとするところだった。


その時、部屋の戸を叩く音が聞こえた。



「兄上、入ってもよろしいですか？」



はぁ‥なんの用だ、こんな深夜に。



しかし巌勝は無言で戸を開く。すると縁壱は静かに部屋に入ってきた。



そしてまた前を向き合うように座ると、縁壱は口を開く。



「兄上、私は兄上のお優しいところが好きです」



「はあ、」


私は優しくもないし、何ならお前の事が嫌いだ。




「兄上の努力家なところ、我慢強いところ、誰に対しても平等であるところが好きです」



「‥‥‥‥」



努力家？それは私がお前みたいな才がないからだ。


お前が言う「好き」は何かの勘違いだ。理想と現実の区別がついていないだけだ。



「話は終わりか？」



若干ムッとした声で巌勝は言う。



立ち上がり縁壱から去ろうとする。




「兄上！！」



「私はお前が嫌いだ」



冷ややかな声で言う。



＿＿＿＿もういっその事嫌いになってくれたらどれ程楽か。




「あに、「もう、」




巌勝は振り返り縁壱を見る。


私の欲しい何もかもを持った弟。自分より遥かに優れた弟。




「私に構わないでくれ。
お前が言う優しい私はただの妄想だ。私はそんな、大層な者ではない」



思い出があった。




縁壱と双六をしたこと。凧揚げをしたこと。それらは確かに大切な思い出だった。＿＿＿楽しかったのだ。本当に、その時は。




だから出来るだけ縁壱を傷付けたくはなかった。



自分の醜い嫉妬を弟に見られたくなかったのだ＿＿。




「‥‥‥」



巌勝は出て行こうとする。部屋から。



縁壱はそれを見てハッとしたのか、巌勝の手をとり、引き止める。



「兄上、」



やめろ、そんな目で私を見るな。




縁壱の方を見ないように、離れようとしても離れない手を忌々しく思い、私は呟いた。




「‥‥‥だ」



ポッ、とでた言葉を縁壱が不思議そうに思う。




「‥‥‥何故、私に構うのだ」



言って俯く。後悔したからだ。縁壱程の者が私に構うのは”兄”だからだ。




‥‥こんな情けない兄に縁壱は情けをかけただけだ。



縁壱はぽかんと開いた口をキュッと戻し、口角をあげる。ふ、と優しく縁壱は笑う。




「兄上はやはりお優しいです」




「‥‥‥‥‥は？‥」



何故そうなる？意味が、意味が分からない。



縁壱が「兄上」と巌勝の向きを直させ、無意識の間に泣いていた巌勝の目を拭う。

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